ソードフィッシュ
映画は冒頭、「狼たちの午後」(1975年のアル・パチーノ主演映画。アカデミー脚本賞受賞)について延々と話すジョン・トラボルタで幕を開ける。なんだこれはと思っていると、トラボルタ率いる謎の組織が銀行に人質を取って立てこもり、金を奪おうとしているところ。「狼たち…」のパチーノは銀行強盗に成功しなかったが、トラボルタはそれをあざ笑うかのように巧妙な仕掛けを用意して自信満々だ。人質には高性能爆弾が仕掛けられ、銀行から離れると爆発する仕掛け。1人が警察に救助されるが、銀行から離れた途端、大爆発を起こす。パトカーや警官がスローモーションで宙を飛び、爆薬に仕掛けられた弾丸がピュンピュン飛び交うこの場面は秀逸だ。途中、テンポが落ちる場面もあるが、ドミニク・セナ監督(「60セカンズ」)の演出はアクション場面の切れ味がいい。ヒュー・ジャックマンとハル・ベリーの「ダイ・ハード」などに比べると、完成度は落ちるけれど、映画全体にどこかB級の雰囲気が抜けきれていないところにかえって好感が持てる。
世界一のハッカー、スタンリー(ヒュー・ジャックマン)が謎の組織の美女ジンジャー(ハル・ベリー)からスカウトされる。スタンリーは過去にFBIのサーバーをクラックして逮捕され、コンピューターに触ることを禁止された。今はトレーラーに住み、機械の油差しをして暮らしている。最愛の娘は別れた妻が引き取り、思うように会うこともできない。話を聞くだけで10万ドル、成功報酬1000万ドルという条件を聞き、スタンリーは別れた妻から娘を取り返す訴訟費用のため、協力する気になる。組織のボス、ガブリエル(ジョン・トラボルタ)は謎に包まれた人物。天才的頭脳と冷静な判断、冷酷な審判を下す。60秒でサーバーに侵入するテストに合格したスタンリーはガブリエルから政府の闇資金95億ドルをコンピューターで盗むよう命じられる。一方、ガブリエルの動きをつかんだFBIのロバーツ(ドン・チードル)は組織を追跡していた。
冒頭のスローモーションを駆使した爆発シーンから事件の発端となった4日前に飛ぶ構成がなかなかである(「ファイト・クラブ」みたいだが)。「観客全員が騙された」というコピーの割に脚本(スキップ・ウッズ)のミスディレクションは大したことはない。しかし、こういう脚本上の仕掛けは観客に対するサービスなのであり、積極的に評価したい。謎の組織の正体も(結果的に)タイムリーなものになった。この映画、アメリカでは今夏、「パール・ハーバー」を抜いて1位になったそうで、製作者も監督もその時点では、米中枢同時テロのことなど知らなかったのだから、なかなか先見の明(?)がある。もう少し公開時期が遅れていたら、アメリカでは公開が延期されていたのではないか。最後にビンハザード(!)という大物テロリストの名前まで出てくるのだ。「60セカンズ」では芳しい評価を得なかったドミニク・セナ監督はこの脚本を得て、快作に仕上げている。SFXによって何でも表現できるようになった現在、やはり重要なのは話の面白さなのだと思う。
ケチを付けるとすれば、ハッカーの描写で、スタンリーのようにGUIで操作するようなハッカーは超一流とは言えないし、勘に頼ったパスワード破りにもリアリティーがない。コンピューター関係の描写はあくまで舞台設定に過ぎず、マニアには物足りないだろう。スキップ・ウッズはカーチェイスのシーンで「続・激突! カージャック」に言及するなど映画にはマニアックな好みが感じられるけれど、コンピューターにはあまり詳しくないのかもしれない。
【データ】2001年 アメリカ 1時間39分 配給:ワーナーブラザース
監督:ドミニク・セナ 脚本:スキップ・ウッズ 製作:ジョエル・シルバー ジョナサン・D・クレイン 製作総指揮:ジム・バン・ウィグ ブルース・バーマン 撮影:ポール・キャメロン 美術:ジェフ・マン 音楽:クリストファー・ヤング ポール・オーケンフォールド 衣装:ハ・ニューエン 特殊効果:ボイド・シャーミス
出演:ジョン・トラボルタ ヒュー・ジャックマン ハル・ベリー ドン・チードル サム・シェパード ヴィニー・ジョーンズ ドレアド・マッテオ ルドルフ・マーティン ザック・グレニアー キャムリン・グライムス アンジェロ・ペーガン