It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

ジュラシック・パーク

ティラノサウルスの咆哮と足音が耳にこびりつく。マイクル・クライトンの原作で恐怖の中心となったのは小型肉食恐竜のヴェロキラプトルだったが、映画はティラノの恐怖を凄い迫力で描き切る。中盤からは「エイリアン2」のクライマックスが延々と続く感じで見終わった後、グッタリと疲れた。ティラノは体長12メートル。ゴジラの恐怖が薄れたのは、大きくなりすぎたことが一因と思い知らされた。素早く人間を襲うにはこの程度の大きさが最も適当なのである。ライオンやトラのように人間を捕獲し、食べてしまう凶暴性は本当に怖い。トイレに座った弁護士の上半身にカブリと食らいつき、左右に振り回す場面を見て、そのリアリティに圧倒された(これは「ジョーズ」で、ロバート・ショウが鮫に下半身を食い付かれる場面の数倍のショック効果がある)。映画の完成度に関しては、まあ、いろいろとあるが、ティラノの恐怖を初めて完壁に描いて、これは記念碑的な映画だ。

原作を読んでいる者にとっては、少しダラダラした部分を感じる前半のタッチを打ち砕くようにティラノは突然登場する。暴風雨と停電に見舞われたジュラシック・パーク。意味をなさなくなった1万ボルトの高電圧線を引きちぎり、テストツアーの車2台に襲いかかるのだ。このティラノの動きの速いこと速いこと。あっと言う間に車をひっくり返し、押し潰す。これまでの映画の恐竜や巨大怪獣はゆったりと動くのが常識だった(エイリアンクイーンでさえ、それほど速くはなかった)。ゴジラシリーズなどは破壊シーンにリアリティを持たせるため、逆にスローモーションで撮影している。しかし、この映画の場合、ヴェロキラプトルもガリミムスも、とてつもなく動作が速い。ゆっくりしているのはもともと鈍い大型草食恐竜ブラキオサウルスぐらいである。この動きの速さは部分的にCGを採用したからできたのだろう。

SFXを担当したのは「ターミネーター2」のスタン・ウィンストン、デニス・ミューレン、フィル・ティペット、ILMなど一流のスタッフ。CGの恐竜にどれぐらいリアリティがあるか疑問だったが、どれがCGでどれがモデルアニメーションでどれが着ぐるみ(スーツ)なのか、見分けはほとんどつかない。この原作の映画化にSFXの高度な技術は不可欠であり、ここまで技術が完成されていなかったら映画の面白さは半減しただろう。その意味でこれはSFXの到達点を見るための映画だ。

だから、人間側が深みに欠けるという批判にもうなずけるのだが、僕はそれほど気にはならない。いくらなんでも恐竜パークなのだから二重三重のセキュリティシステムがなくてはおかしいし、あんなに簡単にパークの機能がマヒしてしまうのも現実的ではないが、それもこれも恐竜を見せるためなのだから仕方がない。もっともっと恐竜をたくさん登場させて欲しかったぐらいである。原作に登場する15種類の恐竜は予算の関係のためか、わずか6種類に減らされているのだ。

コナン・ドイル「失われた世界」は“半分大人の子供たちと半分子供の大人たちへ"捧げられた。「ジュラシック・パーク」は、より広範囲な観客を獲得しつつある。スピルバーグは、やはりスペクタクルな映画がうまい。(1993年8月号)

【データ】1993年 アメリカ 2時間7分
監督:スティーブン・スピルバーグ 製作:キャスリーン・ケネディ ジェラルド・R・モーレン 原作・脚本:マイケル・クライトン 脚本:デヴィッド・コープ 撮影:ディーン・カンディ 美術:リック・カーター 音楽:ジョン・ウィリアムズ
出演:サム・ニール ローラ・ダーン リチャード・アッテンボロー ジェフ・ゴールドブラム ボブ・ペック マーティン・フェレロ ジョゼフ・マゼロ サミュエル・L・ジャクソン

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