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オールスター・キャストで描く軽いフットワークのコンピューター・サスペンス・コメディ。アナグラム(文字の綴り変え)のタイトルで始まって拍手、拍手のラストまで一気に見せる。このところ重たい役が続いていたロバート・レッドフォードが快作「ホット・ロック」のころに戻って軽やかに演じており、好感が持てる。脇を固めるシドニー・ポワチエ(元CIA局員役がぴったりの貫禄だ)や、紅一点のメアリー・マクドネルらも魅力的だ。ストーリーに「ウォー・ゲーム」のようなスケールがあればもっと良かったと思うが、「フィールド・オプ・ドリームス」で男を上げたフィル・アルデン・ロビンソン監督は、まず期待を裏切らない作品に仕上げた。
冒頭、白黒で描かれるのは1969年、ハッカーの学生マーティンとコスモが政府のコンピューターを操作する場面。ニクソン大統領の口座から全額をブラックパンサーに振り込んだりするのだが、マーティンがピザを買いに行った間に、コスモは踏み込んだFBIに逮捕されてしまう。そして現在、指名手配中のマーティン(ロバート・レッドフォード)は身元を偽り、銀行などの保安システムをチェックする5人組スニーカーズのリーダーになっている。5人はポワチエを除いていずれもコンピューターおたくで、脛に傷を持つことでも共通している。
ある日、マーティンはNSA(国家安全保障局)を名乗る2人の男から依頼を受ける。政府関係の仕事はしない方針だが、指名手配のことを持ち出され、半ば強制的に仕事を引き受けさせられる。仕事の内容は有名な数学者が開発したブラックボックスを盗む出すこと。仕事は成功するが、このブラックボックスはすべての暗号を解読する機械であることが分かる(盲目のデヴィッド・ストラザーンがブラックボックスを解析する場面がスリリングだ)。これを悪用すれば、アメリカのセキュリティ・システムはずたずたに壊滅してしまう。2人がNSA局員という話も嘘で、裏には獄中で死んだはずのコスモ(ベン・キングズレー)がいた。コスモは犯罪組織の幹部になっていたのである。スニーカーズたちはブラックボックスを取り返すために、ハイテク機器で警備されたコスモの要塞に侵入する。
脚本はフィル・アルデン・ロビンソンと「ウォー・ゲーム」を製作したウォルター・F・パークス、ローレンス・ランガーの共同。「ウォー・ゲーム」が青春映画の側面を持っていたように、「スニー力ーズ」もマーティンとコスモという2人の男の対立の物語として収斂していく。そしてキャラクターの愉快さ!何でも政府の陰謀にしてしまうダン・エイクロイド、「ダンス・ウィズ・ウルブズ」とはまったく異なる役柄のマクドネル、若い観客にアピールするための出演と思えるリバー・フェニックスまで、それぞれキャラクターの造型が豊かで、ハッピーな感覚に満ちている。最後にNSAの幹部役の某有名黒人俳優に一泡ふかせる場面が痛快である。
レッドフォードは「愛と哀しみの果て」あたりから年取ったなと思っていたが、今回はスタジアム・ジャンパー姿で若さをのぞかせる。私生活を通じて一貫したリベラルな姿勢は好ましく、もっと映画で活躍してほしい。監督に専念した「リバー・ランズ・スルーイット」にも期待しておこう。(1993年3月号)
【データ】1992年 アメリカ 2時間6分
監督・脚本:フィル・アルデン・ロビンソン 製作総指揮:リンズレー・パーソンズ 製作:ウォルター・F・パークス 撮影:ジョン・リンドレイ 音楽:ジェームズ・ホーナー
出演:ロバート・レッドフォード シドニー・ポワチエ デヴィッド・ストラザーン ダン・エイクロイド リバー・フェニックス メアリー・マクドネル ベン・キングスレー