ダークナイト
なんと香港の場面で一瞬、エディソン・チャンが出てくる。ちょっと顔が見えるだけ。セリフもなし。ホントはもっと大きな役だったのかもしれないが、ああいう事件がありましたからね。仕方がないだろう。これ、ヒース・レジャーの遺作なだけではなく、芸能界引退前のエディソン・チャン最後の作品ということになるのだろうか。
さて、さんざん期待して見たこの作品、十分に傑作だと思う。バットマンの身代わりになった地方検事ハービー・デント(アーロン・エッカート)の護送車にジョーカーが襲撃を仕掛ける中盤から延々とクライマックスが続く感じ。まさかそんなというドラマティックなストーリーに加えて、悪の化身であり狂気のジョーカーがゴッサム・シティも画面も支配し、おまけにトゥーフェイスまで出てくるのだ。映画2本分の内容とスペクタクルなシーンが満載だ。バットモービルは壊れるが、バットポッドがまたまたカッコイイ。2時間32分、飽きるところがなかった。
ただし、十分な傑作ではあってもそれ以上ではなかった。僕が期待したのは仮面を付けたヒーローの二面性で、ティム・バートン「バットマン リターンズ」で描かれたようなヒーローであるがゆえの苦悩だった。もちろん、この映画でもジョーカーがバットマンに同じフリークスであることを指摘する場面があるし、バットマンの行動はゴッサム・シティの市民に理解されないという設定もある。ダークナイト(暗黒の騎士)とはそんなバットマンの悲しい姿を警部から市警本部長に昇格したジム・ゴードン(ゲイリー・オールドマン)が指す言葉だ。
だが、そうした設定がどうもエモーショナルなものにまで十分に高まっていかないもどかしさが残る。「リターンズ」においてバートンはペンギンとキャットウーマンの不幸な身の上を描き、それが世間への復讐へと向かう姿に説得力を持たせていた。そしてバットマンとキャットウーマンはお互いに素の自分と仮面を付けた自分の二重人格を持つ身として心を通わせた。この映画に足りないのは悪のジョーカーの精神構造で、こういう存在になった背景が詳しく描かれないことだろう。ヒース・レジャーの鬼気迫る演技に押し切られそうになるけれども、ジョーカーの精神の深奥にまで踏み込めば、さらに映画は深みを増したのではないか。
ウェインの幼なじみで刑事のレイチェル・ドーズ役は前作のケイティ・ホームズからマギー・ギレンホールに代わった。好みの問題ではあるけれど、ジョーカーがレイチェルに向かって「威勢の良い美人だ」と言う場面で「そうかあ?」と思ってしまった。もう少し美人の女優をキャスティングしていれば、ドラマティックさはもっと増したような気がする。