イアン・マキューアンの原作読んでから見るべきだったと激しく後悔した。第3部で明かされる仕掛けが明らかに小説向きのものだからだ。映画はそれを 移し替える際にうまくいっていない。映像化が難しいアイデアで、小説以外では成立しにくいためだろう。ほかの映画なら失敗作と言い切るところだが、この映 画の場合、第2部が素晴らしすぎて失敗作と言いたくない。成功はしてないけど、失敗もしてないという微妙なところにある。
ただし、ジョー・ライトの技術を見るためだけでも映画館に足を運ぶ価値のある作品だと思う。絶妙の長回しに驚嘆した「プライドと偏見」の技術の高さはフロックではなかったのだと確認できた。
第2部に限って書くと、刑務所から出るために戦場に行くことを選んだ男と待ち続ける女の描写が胸を打つ。出征前のレストランのシーンは極限までエモーショ ンを高めた名シーン。「Come back to me, Come back」というセリフの切実さと切なさが凝縮している。
戦場から帰ろうとする男を待つ女というシチュエーションはアンソニー・ミンゲラ「コールドマウンテン」を彷彿させるが、思えばあの映画にもまた「Come back to me」というセリフはあったのだった。ジョー・ライトの資質は明らかにこうしたラブストーリー的描写にある。
このシーンにノックアウトされたと思ったら、この後にまたもや驚異の長回しが待っていた。多くの兵士がいる海岸で展開される長回しはまるでジョー・ライト が「これが自分の映画の刻印なのさ」と言っているようだ。カメラが登場人物の跡を追いかけて撮るような単なる長回しではなく、カメラをフィックスにしてま るで演劇のように撮る長回しでもない。主人公がいったん画面から消えて、移動しながら他の兵士たちを映し、再び主人公が画面の中に入ってきて普通に演技を 続けるという大変なもの。多数の登場人物が入り乱れる長いワンカットを撮るのは大変だが、それをやりたがるジョー・ライトはこうした技術そのものが好きな のだと思う。
ダリオ・マリアネッリの音楽も素晴らしい。ジョー・ライトには普通のラブストーリーを撮ってほしいものだとつくづく思う。絶対に傑作になる予感がある。