トロン:レガシー
1982年の前作「トロン」は延々と普通の描写が続き、CGが始まったかと思ったらすぐに終わってしまった印象がある(パンフレットによると、CGのシーンは15分程度だったらしい)。CG自体は絵が変わっていてそれなりに面白く見たが、これでCG映画を標榜するのは羊頭狗肉に近いな、と思った。今回はCGだけはたっぷりある。前作にも登場したディスク・ファイトやライト・サイクル、監視用飛行マシンのレコグナイザーなどのシーンは随分パワーアップされ、スピード感を増して見応えがある。前作の主人公ジェフ・ブリッジスの若い姿もCGで表現されている。撮影は64日で終わったのに対し、VFXには68週もかかったそうだ。前作の監督スティーブン・リズバーガーは今回、製作に回っているが、CGの技術がまだまだだった28年前の捲土重来を果たす意図もあったのに違いない。サイバースペースの造型やスタイリッシュな衣装、重厚な音楽も良い。3Dにする必要はまったく感じないものの、ビジュアル的にはまあ、文句はない。
ところが、前作同様にストーリーがいまいち面白くない。プログラムを擬人化するのは別にかまわないのだけれど、サイバースペースを牛耳る悪を倒すという話に新鮮さがないのだ。SFというよりはファンタジーの印象が強いのはSF的なアイデアがありふれているからだ(脚本は「LOST」のエドワード・キツイスとアダム・ホロヴィッツ)。11年前の「マトリックス」と比べてみれば、そのプロットの単純さはいかんともしがたい。CGの技術だけでなく、物語の技術に力を注いで欲しいものだ。
1989年、エンコム社のCEOとなったケヴィン・フリン(ジェフ・ブリッジス)が失踪する。20年後、息子のサム(ギャレット・ヘドランド)は父親の共同経営者だったアラン・ブラッドリー(ブルース・ボックスレイトナー)から連絡を受け、ケヴィンが所有していた古びたゲームセンターに足を踏み入れる。コンピューターを操作していたサムを閃光が包み、気がつくと、サムはコンピューターの中の世界にいた。そこはクルーという謎の人物が支配する世界。クルーは外の世界への進出を目論んでいた。父親と再会したサムはクルーの野望を砕くため、父親とISO(アイソー)と呼ばれる自由意思を備えたプログラムのクオラ(オリヴィア・ワイルド)とともに奔走する。
ギャレット・ヘドランドはこの映画で若手の有望株に躍り出たらしい。相手役のオリヴィア・ワイルドも良い。映画がなんとか持ったのはブリッジスを含めた役者の魅力と映像のおかげだろう。監督はこれがデビュー作でCMディレクター出身のジョセフ・コジンスキー。CM出身だから映像の見せ方はうまいが、物語を語る技術の方はリズバーガーと同レベルのようだ。