トリプルX
ノリのいい音楽で綴られるアクション映画。007と正反対の性格のシークレット・エージェントを主人公にして(冒頭に007風のエージェントが敵に殺される場面がある)、特色を出そうとしたのだろうが、やはり007的な展開からは抜け切れていない。というか、ほとんど007。主人公が各種の秘密兵器を使ったり、終盤、テロリスト・グループが荒唐無稽な人類抹殺兵器を出してくるあたり、少し前の007そのままだ。ロブ・コーエン監督のアクション場面の撮り方は悪くないし、スキンヘッドで主演のヴィン・ディーゼル(「ピッチブラック」)も相手役のアーシア・アルジェントも(声がかわいければ、もっと)良いのだが、残念なことにストーリー・テリングが大ざっぱすぎる。主人公の行動に説得力を持たせる要素と緻密な演出が必要だったのだと思う。しかし、少なくとも同じチェコを(冒頭で)舞台にした「9デイズ」などよりは相当いい。雪崩からスノボーで逃げるシーンや爆発の中をオートバイで駆け回るアクションなど、CGやスタントを使っているのがありありなのだが、それなりに見せてくれる。これにはディーン・セムラーの撮影も貢献しているようだ。アクション場面だけをのんびり見て楽しむ気楽な作品というところか。
チェコのテロリスト・グループ、アナーキー99に情報部員3人を殺されたNSA(国家安全保障局)のギボンズ(サミュエル・L・ジャクソン)は従来の情報部員では立ち向かえないと判断。上院議員の車を盗んで橋からジャンプしたザンダー・ゲイジ(ヴィン・ディーゼル)に白羽の矢を立てる。ザンダーは過酷なテストを受けさせられた後、刑務所に行くか、チェコに行くかの二者択一を迫られ、渋々シークレット・エージェント役を引き受ける。アナーキー99のリーダー、ヨーギ(マートン・チョーカシュ)に接近したザンダーは組織に潜入し、組織の壊滅を図る。ストーリーはいたって簡単。それを所々に大がかりなアクションを挟んで見せていく。構成としてはありふれた映画である。アクション映画の敵は近年、テロリストと相場が決まっているが、この映画に登場する組織にリアリティはなく、その意味でも007的アクションの枠を超えてはいない。ただ、個人的には主人公の心情とアクションが密接にかかわった映画が好きなのだが、こういう軽い作品をまったくダメと言うつもりはない。
いかつい風貌ながら、人の善さが透けて見えるヴィン・ディーゼルはブルース・ウィリスのような路線を歩むといいかもしれない。映画にあまり魅力はないが、ディーゼルの本格的主演映画のスタートとしてはまずまずと思う。「ダイ・ハード」のような完成度の高い脚本にめぐり逢うことはなかなか難しいものだ。顔にやけどの傷を持ち、スカーフェイスと呼ばれるギボンズを演じるサミュエル・L・ジャクソンはいつも通りの演技。アーシア・アルジェントはその名前の通り、ダリオ・アルジェント監督の娘で、監督作品もあるそうだ。
【データ】2002年 アメリカ 2時間4分 配給:東宝東和
監督:ロブ・コーエン 製作総指揮:アーネ・L・シュミット トッド・ガーナー ヴィン・ディーゼル ジョージ・ザック 製作:ニール・H・モリッツ 脚本:リッチ・ウィルクス 撮影:ディーン・セムラー プロダクション・デザイン:ギャビン・ボクエット 音楽:ランディ・エデルマン 衣装:サーニャ・ミルコビック・ヘイズ 特殊視覚効果:ジョエル・ハイネック
出演:ヴィン・ディーゼル アーシア・アルジェント マートン・チョーカシュ サミュエル・L・ジャクソン マイケル・ルーフ リッキー・ミューラー ヴェルナー・ダーエン ペトル・ヤクル ジャン・フィリペンスキー トム・エヴェレット ダニー・トレホ トーマス・イアン・グリフィス