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チェンジング・レーン

「チェンジング・レーン」パンフレット

無理な車線変更をした白人ヤッピーが黒人ブルーカラーの男の車と接触、示談の話もせず、白紙の小切手を押しつけて早々に現場を立ち去る。ヤッピーは弁護士で裁判所に遅れてはと思ったのだ。焦っていたヤッピーは裁判所に提出するはずの重要な書類を現場に落とす。黒人の方も離婚調停のため裁判所に行く必要があった。事故のせいで20分遅れ、妻に親権を取られてしまう。黒人は書類を拾っていたが、ヤッピーの仕打ちに腹を立て、返そうとしない。怒ったヤッピーは脅迫のため黒人をコンピューター操作で破産させてしまう。という予告編以上のものがあるかどうかあまり期待せずに見たら、面白かった。サスペンス映画的な展開がアメリカ映画得意のモラルの回復や人生の再生といったテーマを描く映画に変わる。「チェンジング・レーン」というタイトルは単なる車線変更ではなく、間違った人生の変更も意味しており、よく練られた脚本だと思う。

弁護士が落とした書類はある財団の運営を弁護士が勤務する法律事務所に委託することを証明するものだった。弁護士自身が死にかけた老人にサインさせたものだが、振り返ってみれば老人がサインの意味を理解していたかどうか、疑わしい。そして事務所の経営者2人が財団から300万ドルを横領していたことが分かる。弁護士は経営者の娘と結婚しており、そうした不正を暴けば、自分の首を絞めることになる。それは今の安楽な生活を捨てることを意味する。妻はすべての事情を知った上で、偽の書類を裁判所に提出するよう頼む。

なかなか考えてあるシチュエーションだと思う。弁護士を演じるのはベン・アフレック、黒人ブルーカラーはサミュエル・L・ジャクソン。事務所の経営者をシドニー・ポラックが演じる。アフレックは登場したときには嫌な男なのだが、その後の変化をうまく演じたと思う。サミュエル・L・ジャクソンは元アルコール中毒で、別居した妻はオレゴンへ移住しようとしているという設定。妻子を引き留めるためにアパート購入のローンを組んでいた。すぐに書類を返そうとするが、データを書き換えられ破産させられたことでローン契約は破棄され、怒りを募らせる。アフレックとジャクソンの感情的な行き違いから事態が最悪の状況になっていく中盤の展開はサスペンスに満ちている。

しかし、脚本が優れているのは、安っぽい正義感を否定した上でやはり理想的な結末に至らせていることだ。ポラックはアフレックに対して、自分は(不正もしているが)トータルでは公益のある仕事をしていると話す。人生はトータルで評価される、善と悪を差し引けば、自分は善だというのが実に偽善者らしい言い分である。普通なら主人公はこうした偽善的な世界からドロップアウトするのかと思うが、これもよく考えた結末となっている。脚本は主人公の心変わりの契機として、車線変更による事故のほかに、事務所に面接に来た青年の理想的な言葉も用意している。ある1日の体験が弁護士をかつて志した道へと戻すわけだ。監督は「ノッティング・ヒルの恋人」のロジャー・ミッチェル。見応えのある作品にまとめた手腕に感心した。

【データ】2002年 アメリカ 1時間38分 配給:UIP
監督:ロジャー・ミッチャル 製作:スコット・ルーディン 脚本:チャップ・テイラー マイケル・トルキン 原案:チャップ・テイラー 製作総指揮:ロン・ボズマン アダム・シュローダー 撮影:サルバトーレ・トディノ プロダクション・デザイン:クリスティ・ズィー 衣装:アン・ロス 音楽:デヴィッド・アーノルド
出演:ベン・アフレック サミュエル・L・ジャクソン キム・スタウントン トニ・コレット シドニー・ポラック リチャード・ジェンキンス アマンダ・ピート ウィリアム・ハート

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