タイタンズを忘れない
肩肘張った社会派の大作ではなく、エンタテインメントとしてさわやかに感動的に描かれた人種差別撤廃映画とでもいうべき作品。1971年、ヴァージニア州アレキサンドリアにある高校のフットボールチーム「タイタンズ」を描いた実話で、人種の壁を超えて一つになったチームが連戦連勝し、町の人々も巻き込んでいく過程が綴られる。ヘッド・コーチ役で主演のデンゼル・ワシントンはこうした映画には欠かせない存在だが、共演のアシスタント・コーチ役ウィル・パットンの渋い抑えた演技が光り、何よりも個性あふれる高校生たちの群像劇が実にいい。この映画まず、スポーツを通じた青春学園ドラマの側面がよくできているのが幸いした。硬さとエンタテインメントがほどよいさじ加減で、うまくまとまっている。監督のボアズ・イエーキンはこれがメジャーデビュー。製作のジェリー・ブラッカイマーとよくコンビを組むマイケル・ベイなどより演出的にずっとまともである。人種差別を描いた映画としてはスパイク・リー作品のような鋭さには欠けるし、甘い部分も散見されるが、こういうバランスの取れた大衆的な映画の方がテーマを伝えるためには効果的な場合がある。
アレキサンドリアは保守的な田舎町。根強い黒人差別が残り、「この町の黒人には屈辱と絶望しかない」という状況である。しかし公民権運動の流れで黒人と白人の高校が統合され、フットボール部のコーチに黒人のハーマン・ブーン(デンゼル・ワシントン)が赴任してくる。それまでヘッド・コーチだったビル・ヨースト(ウィル・パットン)はアシスタントに降格。ハーマンの着任には人種差別撤廃の象徴的意味があったらしいが、町の有力者たちは失敗すれば、すぐにハーマンを辞めさせようとしていた。生徒たちも大人に負けず、敵対心を燃やしている。ハーマンは2週間の合宿でハードな練習を重ねるとともに、生徒たちにお互いを理解させることに成功する。ハーマンとビルも最初は敵対するが、チームの勝利に関して目的は同じ。次第に心を通わせていく。最初の試合では全員が白人のチームと対戦。ビルの的確なアドバイスでタイタンズは勝利する。その後も順調に勝ち進み、州大会でも躍進を続ける。その活躍を見て町の人たちはタイタンズの姿勢に拍手を送るようになる。
生徒の中で白人グループのリーダーであるゲリー(ライアン・ハースト)と黒人グループのリーダー、ジュリアス(ウッド・ハリス)との交流がいい。黒人と仲良くし始めたことで、ゲリーはガールフレンドと親友を失うことになるが、それでもひたむきさを忘れない。終盤、ゲリーは不幸な事故に遭うが、その後の力強い生き方には共感を覚える。転校生を演じたロニー(キップ・パルデュー)や黒人のクォーターバック役ピーティ(ドナルド・フェゾン)、名前が分からないが、人の良い太っちょの白人選手ら生徒たちのそれぞれの描写がさわやかだ。黒人の高校生が白人専用のパブに入るのを断られたり、親たちの対立など多くの人種差別の例も点景として描かれ、物語に厚みを与えている。さまざまな場面での人種間の対立と和解が描かれており、脚本のグレゴリー・アレン・ハワードは良い仕事をしたと思う。デンゼル・ワシントンは過去の映画では熱演が空回りした場合もあったが、ボアズ・イエーキンの演出はワシントンだけに重きを置かず、ウィル・パットンや生徒たちをバランスよく描き、これを回避するのに成功している。
【データ】2000年 アメリカ 1時間45分 ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ提供 配給:ブエナ・ビスタ・インターナショナル
監督:ボアズ・イエーキン 脚本:グレゴリー・アレン・ハワード 製作:ジェリー・ブラッカイマー チャド・オーメン 製作総指揮:マイク・ステンソン マイケル・フリン 撮影:フィリップ・ルースロ 美術:デボラ・エヴァンス 衣装デザイン:ジュディ・ラスキン・ハウエル 音楽:トレバー・ラビン
出演:デンゼル・ワシントン ウィル・パットン ウッド・ハリス ライアン・ハースト キップ・パルデュー ドナルド・フェゾン ハイデン・パネティエーリ