ダブル・ジョパディー
「ドライビング・ミス・デイジー」のブルース・ベレスフォード監督のサスペンス。というよりも、アシュレイ・ジャッドが魅力を満開させた映画である。この女優、決してそれほどの美人ではないと思うが、とにかく笑顔(とスタイル)がいい。この映画でもラストに満面の笑顔を見せてくれる。必ずしも出演作品に恵まれているとは言えないけれど、着実にキャリアを積み重ねており、将来的にはもっと伸びる女優と見た。タイトルの“ダブル・ジョパディー”とは合衆国憲法修正第5条の「二重処罰の禁止」のことで、同じ罪で2度は裁かれないという規定(日本にも同じ趣旨の法律はあり、松本清張が短編を書いている)。ヒロインは身に覚えのない夫殺しの罪で有罪になった。しかし、夫は生きていた。という発端を見れば、ラストは想像がつくのだが、映画はヒロインの母性愛と追跡劇を絡めて飽きさせない。ヒロインの刑務所での境遇や夫のキャラクターなどにもう少し深みのある描写もほしいところだが、娯楽作だから深すぎず、浅すぎずがいいのだろう。ベレスフォードの演出にも抜かりはなく、楽しめる佳作になった。
セーリングの途中、リビー・パーソンズ(アシュレイ・ジャッド)の夫ニック(ブルース・グリーンウッド)が忽然といなくなる。リビーの服と船内は血にまみれ、船上にはナイフが落ちていた。状況証拠と夫に200万ドルの保険金がかけられていたことから、リビーに夫殺しの疑いがかけられ、有罪になってしまう。収監されたリビーは4歳の一人息子マティ(ベンジャミン・ウィアー)を親友のアンジー(アナベス・ギッシュ)に託すが、アンジーはリビーに黙って姿を消す。ようやく探し当てたアンジーに電話をかけた際、リビーはニックがまだ生きていることを知る。アンジーとニックが共謀し、200万ドルを目当てにリビーを罪に陥れたのだ。親しくなった女囚からダブル・ジョパディーについて聞かされた後、リビーが体力トレーニングに励むショットを挟んだのは的確な演出。これでリビーの決意が明確になった。6年後、リビーは仮釈放され、保護観察官のトラヴィス(トミー・リー・ジョーンズ)監視下のアパートで暮らすことになる。愛する息子を取り戻すためリビーはアパートを抜け出し、マティとニックの行方を捜し始める。それをトラヴィスが執拗に追跡する。
普通なら、刑務所に入れられたヒロインは夫への復讐を誓うはずなのだが、リビーの関心はあくまで息子にある。単純な復讐劇にしなかったのは脚本の工夫で、これが映画を後味の良いものにしている。刑務所内の描写に悲惨な感じはなく、実際にはヒドイ男のはずのニックのキャラクターも小悪人程度の印象しか受けない。母性愛がメインだから、これでいいのだろう。ビリングではトップに来るトミー・リー・ジョーンズは「逃亡者」の捜査官を彷彿させる役。最初はヒロインに敵対するが、事件の真相が分かると、心強い味方になる。まあ、定石的な展開である。ブルース・ベレスフォードの演出はスピーディーだ。過度にトリヴィアルな部分にこだわらず、節度をわきまえたもので、好ましい。娯楽映画のなんたるかを分かっている監督だと思う。
【データ】1999年 アメリカ 1時間45分 パラマウント映画提供 配給:UIP
監督:ブルース・ベレスフォード 脚本:デヴィッド・ワイスバーグ ダグラス・S・クック 撮影:ピーター・ジェームズ 製作:レナード・ゴールドバーグ プロダクション・デザイナー:ハワード・カミングス 衣装:ルディ・ディロン リンダ・バス 音楽:ノルマンド・コーベイル
出演:アシュレイ・ジャッド トミー・リー・ジョーンズ ブルース・グリーンウッド アナベス・ギッシュ ベンジャミン・ウィアー ローマ・マフィア ダヴェニア・マクファデン