ディープ・ブルー
A級になりきれないレニー・ハーリン監督の海洋アクション。今回もまたツボをはずした作りで、別に期待はしていなかったのだけれど、やはりこの程度の出来ではがっかりさせられる。「ジョーズ」と比較されるのを承知の上でサメの映画を撮った心意気は買うが、スピルバーグを甘く見てはいけない。映画を見せる技術に関しては、ちょっとレベルが違うのだ。いくらSFXが進歩しようと、映画はやはり演出の力いかんにかかってくるという当たり前のことを改めて感じさせられる映画である。24年も前の「ジョーズ」の足下にも及ばない。
冒頭、ヨットの4人の男女がサメに襲われる。4人は危機一髪のところを一人の男に助けられる。男は海洋研究施設アクアティカで働くカーター(トーマス・ジェーン)だった。アクアティカは海上に建設された施設で、サメの脳組織を利用してアルツハイマー病治療薬を作る実験をしている。リーダーは女性科学者スーザン(サフロン・バローズ)。研究の結果、サメは人間並みの知能を得る。しかし、スーザンに資金を提供している会社はなかなか薬の結果が出ないのにいらだち、資金ストップを警告。社長ラッセル(サミュエル・L・ジャクソン)が視察にやってくる。スーザンは一気に研究を早め、実験ザメから脳組織を抽出。アルツハイマー病に効果があることを実証した。しかし、その直後、サメが暴れ出し、研究員の手を食いちぎる。さらに救援に駆けつけたヘリがサメに引きずられて、アクアティカに激突、大破してしまう。アクアティカには海水が流れ込み、沈没の危機となる。折しも外はハリケーンが接近していた。残された7人の男女は必死の脱出を試みるが、一人また一人とサメの餌食になっていく。
「ジョーズ」に「ポセイドン・アドベンチャー」と「ミミック」を加えたような設定だ。実はスーザンは禁止された遺伝子操作もやっていた。自分が作った怪物に襲われるのだから、これはもう「フランケンシュタイン」の昔から自業自得と相場が決まっているのである。スーザンはアルツハイマー病の父を持った経験から、研究を始めたのだが、いくら理由があろうと、いわゆるマッドサイエンティストなのである。「ミミック」のミラ・ソルビーノの場合はその魅力で納得できる部分もあったけれど、サフロン・バローズには少しも同情する気にならない。ここがまずマイナス。ハーリンの演出にもキレがなく、物語の設定を説明する前半は退屈だ。事前に好意的な批評も読んでいたので、ここを我慢すれば、あるいはと思ったが、やはり駄目だった。
サミュエル・L・ジャクソン以外はノースターといえる映画で、その分、ストーリーにも意外性が加えられる。誰が餌食になるのか、生き残るのかの楽しみは残されている。だから詳しくは書かないけれど、脇役として登場したジャクソンが一瞬、主役になり、すぐに脇役に退いてしまう場面は面白かった。信心深くプリーチャーと呼ばれるアクアティカのシェフ(LL・クール・J)も同じような意味で面白い存在。ヒーロー役のトーマス・ジェーンにはもう少し貫禄がほしいところだ。
【データ】1999年 アメリカ映画 1時間45分
監督:レニー・ハーリン 脚本:ダンカン・ケネディー、ドナ・パワーズ、アラン・リーシュ
撮影:スティーブン・ウィンドン 音楽:トレバー・レイビン 視覚効果監修:ジェフリー・A・オークン
特殊効果監修:ジョン・リチャードソン
出演:トーマス・ジェーン サフロン・バローズ サミュエル・L・ジャクソン ジャクリーン・マッケン マイケル・ラパポート ステラン・カースガード LL・クール・J