ダイナソー
確かにCGの恐竜は良くできており、実写の背景の中に自然に溶け込んでいる。「ジュラシック・パーク」の前にこの映画を見ていたら、その技術に驚いたことだろう。もちろん映画の技術は7年前の「ジュラシック・パーク」よりも進んでいるのだが、最初にCGの恐竜を見たときのあのショックには到底及ばない。それに意外に重量感が欠けた部分がある。恐竜の巨大さ、体重の重さといったものが表現しきれていないのだ。加えてストーリーがあまりにも子供向けである。いや子供向けが悪いのではない。「トイ・ストーリー」シリーズを見れば、子どもにも理解できる脚本で大人の観客をも楽しませているのだから、結局は脚本の問題ということになるだろう。CGに時間をかけるのと同じぐらいにストーリーにも時間をかけるべきだった。ヒネリもなにもなく、観客の予想通りに進行していくこの脚本、映画の進んだ技術をぶちこわしにするに十分である。ディズニーがこれまで作ってきた動物が主人公のアニメ映画と同じ感覚で作ったことにそもそもの間違いがあるのだろう。
6500万年前、イグアノドンが生んだ1個のふ化寸前の卵が小型恐竜のオヴィオラプトルに取られ、それがプテラノドンに渡り、メガネザルの元に落ち着く。生まれた恐竜の赤ちゃんをメガネザルが育て始める、という導入部分はなんだか昨年の「ターザン」(傑作)を思わせる展開。アラダーと名付けられたイグアノドンはサルたちと平和に暮らしていたが、ある日、巨大隕石が落下、大地は荒れ果てる。パンフレットによると、この隕石は恐竜を絶滅させたといわれるものらしい。それならば、爆発の噴煙が地上を覆って地球は気温の急激な低下に見まわれるはずだが、そんな描写はない。すみかを逃れたアラダーとサルたちは新天地を求めて移動する草食恐竜の群れに出会い、行動を共にすることになる。群れのリーダーはやはりイグアノドンのクローン。群れには年老いたブラキオサウルスやスティラコサウルス、幼い子どもの恐竜もいるが、クローンは力のないものは死ねといった主義の持ち主。群れの後からは肉食のカルノタウルスやヴェロキラプトルが追いかけてきており、群れから取り残されれば死を意味する。過酷な道のりの中、優しいアラダーの行動は次第に恐竜たちから信望を集めるようになる。
恐竜に名前を付けたり、言葉をしゃべったりといった擬人化はディズニーお得意の手法ではあるし、「トイ・ストーリー」では効果的だったのだが、恐竜を描く映画としてはほとんど逆効果。おもちゃがしゃべれば夢のあるファンタジーだけれど、恐竜がしゃべると幻滅なのである。子どもは満足しても大人は苦笑せざるを得ない。メガネザルと恐竜が同じ時代にいるという設定にも疑問符が付く。恐竜の動きや描写のリアルさとこうした物語の安易さは相容れないものだ。もう少し何とかならなかったものか。せっかくのCG技術なのにアニメでも描けるようなストーリーではもったいなさすぎる。
【データ】2000年 アメリカ 1時間22分 ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ提供 配給:ブエナ・ビスタ・インターナショナルジャパン
監督:ラルフ・ゾンダッグ エリック・レイトン 製作:パム・マースデン 共同製作:ベイカー・ブラッドワース 脚本:ジョン・ハリソン ロバート・ネイソン・ジェイコブス 原案:ウォロン・グリーン 音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード プロダクション・デザイナー:ウォルター・P・マーティシアス ビジュアルエフェクト監修:ニール・クレペラ デジタル・エフェクト監修:ニール・エスクーリ ストーリー:ソーム・エンリケス ジョン・ハリソン ロバート・ネルソン・ジェイコブス ラルフ・ゾンダッグ
声の出演(かっこ内は日本語吹き替え版):D・B・スウィーニー(袴田吉彦) アルフル・ウッダード(高島雅羅) オジー・デイビス(渡部猛) マックス・カセーラ(中尾隆聖) ヘイデン・パネティエーリ(須藤祐実) サミュエル・E・ライト(中田穣治) ジュリアナ・マルグリース(江角マキコ) ピーター・シラグサ(玄田哲章) ジョアン・プローライト(島美弥子) デラ・リース(磯部万沙子)