It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

永遠に美しく…

アメリカの30分とか1時間のテレビドラマにあるようなブラック・コメディ。そう感じるのはロバート・ゼメキスの映画としては珍しくアイデアが足りないからだ。あと一つか二つアイデアを入れて、一ひねりか二ひねりしないと苦しい。見終わって印象に残るのがゴールディ・ホーンのどてっ腹の穴であったり、メリル・ストリープの180度ひねった首ばかりでは困るのである。それにそういうSFXは予告編などでさんざん見せられていたから、よけいに物足りなさを感じてしまう。映画のオチも長編向きとは言えず、長い短編を見せられたような気分になる。

女流作家のヘレン(ホーン)と女優のマデリーン(ストリープ)は一見、仲のよい友人だが、お互いに「マッド」、「ヘル」と呼び合い、内心ではライバル意識バリバリである。ある日、ヘレンが紹介した婚約者のブルース・ウィリスをマデリーンは横取りしてしまう。これは初めてではなく、それまでにもことごとくマデリーンはヘレンの恋人を横取りしていた。ヘレンとウィリスが愛を語る場面から一転して、マデリーンとウィリスの結婚式の場面になるのは「ナイル殺人事件」を思わせる。あの映画でミア・ファーローが婚約者を横取りしたロイス・チャイルズに復讐を誓ったように、ヘレンもマデリーンに復讐しようとする。もっともそれはすぐにではなく、ヘレンが失恋のショックでブクプクと太ってしまい(まるで「バタアシ金魚」です)、精神病院に収容されてからのことではあるが…。

数年後、マデリーンは出版記念パーティーでヘレンが見違えるように痩せているのを見てショックを受ける。日ごろから容貌の衰えを感じていたこともあって、以前に紹介されていた永遠に若さを保つ秘薬を試す。ところが、この秘薬は若さを保つだけでなく、不老不死となる薬だった。実はヘレンも同じ薬を使っていたのである。2人はふとしたことでともに肉体的に死んでしまう。が、不死の薬だから体にガタがきても死ぬことができない。いわばゾンビになるのだ。 憎しみ合う2人が主人公だから、映画が今ひとつ晴ればれとしないのは仕方がない。それにしても、もう少し映画的に広がりが欲しかった。秘薬を売るイザベラ・ロッセリーニ(色っぽくて良い)の屋敷にはプレスリーやジェームズ・ディーンがいたりしてハリウッドの俳優たちもこの薬を使っていたと説明される。話が広がるかなと期待を持たせるのだが、結局それはそれだけの話であって、秘薬やロッセリーニの正体は謎のままだ。ロッセリーニの正体は魔女か悪魔でなければならぬ、と僕は思うのですが…。

山口雅也という作家に「生ける屍の死」(DEATH OF THE LIVING DEAD)というミステリがある(もちろんこれは「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」から着想を得ている)。死人が次々に生き返る場所での殺人事件を描き、なんと探偵すらも殺されて生き返るという話だが、「永遠に美しく…」を見て、この小説を思い出した。それは死化粧を施す葬儀屋がどちらにも出てくるからであり、どちらも主人公たちが必死に死んだことを隠そうとするからだ。しかし両者のアイデアの展開には大きな差がある。要するに、「永遠に美しく…」は脚本段階での推敲とオリジナリティが必要だったのである。(1993年1月号)

【データ】1992年 アメリカ 1時間44分
監督:ロバート・ゼメキス 製作:スティ−ブ・スターキー ロバート・ゼメキス 脚本:マーティン・ドノヴァン デヴィッド・コープ 撮影:ディーン・カンディ 美術:リック・カーター 音楽;アラン・シルベストリ
出演:メリル・ストリープ ゴールディ・ホーン ブルース・ウィリス イザベラ・ロッセリーニ

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