ダイ・ハード2
ドン、ドン、ドーンと「リーサル・ウェポン2」と同じような感じでタイトルが出て、映画は一気に大がかりなアクションの世界に入っていく。舞台は吹雪に見舞われたワシントンDCのダレス国際空港。前作と同じクリスマス・イブに主人公ジョン・マクレーン(ブルース・ウィリス)が大規模なアクションを展開してくれる。アメリカで大ヒットし、“前作をはるかに上回る傑作”との評判を聞いて期待が大きかったのだが、結論から言えば、その期待は裏切られた。前作はアクション映画というジャンルを大きく超えた“10年に1本の傑作”と僕は思う。今回のは“ジャンル内での傑作”にすぎないのである。
今回、マクレーンが対するのは、空港の管制設備を乗っ取ったテロリスト集団。空港の誘導灯は消え、飛行機との交信もできなくなり、空港機能は完全にマヒしてしまう。一味の狙いは、ワシントンDCへ飛行機で護送される南米の麻薬玉エスペランザ将軍(フランコ・ネロ)の身柄引き渡しにあった。クリスマス休暇でやってくる妻ホリー(ボニー・ベデリア)を迎えにきたマクレーンは事件に巻き込まれ、頭の硬い空港警察と対立しながら、再び孤軍奮闘の戦いを強いられることになる…。一番大きな不満は脚本にある。伏線が張リ巡らされ、モザイク模様のように綴密な完成度を見せた前作とは異なり、大雑把なのである。伏線も少なく、感心したのは、○○と思っていた△△が実は☆☆だったというアリステア・マクリーンの小説によく出てくるような仕掛けだけだった。ストーリー上のアイデアが足りない。マクレーンと黒人警官、妻との間にあったヒューマンな描写もない。スティーブン・E・デ・スーザが今回も脚本に加わっているけれども、出来には大きな差があり、前作がいかに奇跡的によくできた脚本だったかを痛感させられた。
それぞれのアクション場面に関しては良くできていると言っていいだろう。始まって間もなく、不審な男たちを見付けたマクレーンが荷物室で線り広げる攻防があり、続いて建設途中の補助通信施設内での銃撃戦、飛行機の爆発炎上、着陸してきた将軍の飛行機を巡る争い、一味のアジト周辺でのスノー・モービル追撃シーンと見せ場が連続する。そのどれもが水準を超えている。特にコックピットに閉じ込められたマクレーンが次々に投げ込まれる手榴弾からどう脱出するかは興味深かった。でも、あまり心がときめかないのだ。
フムフムと大がかりなスペクタクルに納得しながらも、気分が高まっていかない。例えば、前作でマクレーンが消防ホースを体に巻き付けてビルの屋上から飛び降りるシーンを思い出せば良い。この場面は前作でも屈指のシーンだった。マクレーンが仕掛けられた爆弾を発見→テロリストの一人との死闘→人質を階下に降ろすために屋上で空に向かってマシンガンを乱射→FBIのヘリがマクレーンを銃撃→飛び降りるマクレーン→屋上とヘリの爆発→窓ガラスを割って中に飛び込む→さらにホースの付け根が外れ、引きずられて落ちそうになる−とダメ押し的な展開だった。今回はそれぞれのシーンが割りと簡単にカタがついて緊密に結びついていかない。それはやはり脚本の弱さからくることなのである。
「エルム街の悪夢4」(ケッ!)のレニー・ハーリン監督は各シーンをうまくまとめているけれども、ジョン・マクテイアナンのメリハリのある演出にはかなわなかった(余談だが、前作のビデオには本編終了後に「エルム街…」の予告編が入っている。何かの因縁だろうか)。「なんで俺だけが、こんな目に…」とボヤきながら活躍するブルース・ウィリスは笑えるが、007シリーズのようにならないためにも、当然作られるであろう第3作ではもっとキャラクター描写に力を入れてほしいものだ。ま、シリーズものでそれが不足してくるのは仕方がない面もあるんですけれどもね。(1990年9月号)
【データ】1990年 アメリカ 2時間4分
監督:レニー・ハーリン 製作総指揮:ロイド・レヴィン マイケル・レヴィー 製作:ローレンス・ゴードン ジョエル・シルバー チャールズ・ゴードン 原作:ウォルター・ウェンジャー 脚本:ダグ・リチャードソン スティーブン・E・デ・スーザ 撮影:オリバー・ウッド 音楽:マイケル・ケイメン
出演:ブルース・ウィリス ボニー・ベデリア ビル・サドラー ジョン・エイモス フランコ・ネロ アート・エバンス