ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション
シリーズ第5作。そして今回が最も面白い。冒頭、離陸する飛行機のドアにぶら下がるトム・クルーズなど数々のアクションにも見応えがあるが、それ以上にスパイ映画の本道に立ち返ったストーリーがいい。国際犯罪組織シンジケートの謎の女イルサ・ファウスト(レベッカ・ファーガソン)の役柄は「北北西に進路を取れ」のエヴァ・マリー・セイントを思わせるほど魅力的だ。クライマックス、イルサがイーサン・ハント(トム・クルーズ)に迫る3つの選択肢にはしびれた。スパイ映画、サスペンス映画に冴えを見せるクリストファー・マッカリー監督の起用は大成功だったと言うべきだろう。アクションを羅列しただけのよくある凡作とは異なり、ドラマとアクションを高いレベルで組み合わせた傑作エンタテインメントだ。
今回の敵シンジケートは各国諜報機関のエージェントを集めたテロ集団。イーサン・ハントはベンジー(サイモン・ペッグ)とともにシンジケートのボス、レーン(ショーン・ハリス)を追い詰めたところで逆に捕まってしまう。しかし、組織の女イルサはなぜかハントを助けた。イルサは英国諜報部MI6がシンジケートに潜入させたエージェントだった。エージェントの非情な宿命を背負ったイルサの役柄もさることながら、アクションができ、情感を込めた演技も見せるレベッカ・ファーガソンはこの映画の成功の大きな部分を占めている。ハントとイルサの関係が淡すぎず、濃すぎない大人の関係なのもいい。
中国資本のアリババ集団が制作参加しているためか、オーストリア首相が狙われる劇場で上演されているのは中国が舞台のオペラ「トゥーランドット」。しかし、マッカリ-、転んでもただでは起きない。イルサが迫る3つの選択肢はトゥーランドット姫が出す3つの謎かけにかけたものだろう(ここで劇伴が「トゥーランドット」のアレンジになるのだ)。序盤のイーサンが捕まる場面の仕掛けを終盤に逆のパターンで繰り返すなどドラマトゥルギーをきっちり守ったマッカリ-の脚本はヒッチコックなど過去のサスペンス映画を引用して映画ファンに目配せしながら細部に凝っている(ウィーンが舞台となる場面では「第三の男」を思わせるシーンがあった)。自分の監督作だけにいつも以上に脚本に力が入ったのではないか。
公式サイトにあるメイキング映像を見ると、飛行機にぶら下がるシーンはワイヤーを付けたクルーズが本当にやっている。ジャッキー・チェンと比較している人がいて、いやそこまではと思ったのだが、クルーズは既に53歳。アクションのレベルが違うとはいっても、クルーズが相当に頑張っていることは間違いない。ユーモアを絡めた場面も得意なのはジャッキーに共通する。そのユーモアはサイモン・ペッグとCIAのアレック・ボールドウィンが担っていて、どちらも好演だ。
マッカリ-は「ユージュアル・サスペクツ」でアカデミー脚本賞を受賞した後、「ワルキューレ」「アウトロー」(兼監督)「ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル」「オール・ユー・ニード・イズ・キル」でクルーズと組んでおり、クルーズの信頼が厚いのだろう。シリーズの次作を作るなら、再登板を熱望する。