It's Only a Movie, But …

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ミッドサマー

「ヘレディタリー/継承」で注目を集めたアリ・アスター監督の長編第2作。両親と妹を亡くした女子大生が恋人や友人ら5人でスウェーデンの奥地の村を訪れ、異様な事態に巻き込まれる。外部から隔絶されたコミュニティーを訪れた人物が散々な目に遭う物語は洋の東西を問わずあり、この映画は特に「ウィッカーマン」(1973年、ロビン・ハーディー監督)と類似する部分が多いといわれる。物語の骨格は「ヘレディタリー/継承」にも似ているし、「悪魔のいけにえ」(1974年、トビー・フーパー監督)と共通する部分もある(これはパンフレットでも指摘していた)。

アリ・アスターはそうした先行作品を踏まえ、独自のショッキングなショットを入れて映画を構成している。そのショットの中で個人的に最も怖かったのはコミュニティー内のある人物の不気味な顔で、オムニバス映画「世にも怪奇な物語」のフェリーニ監督作品「悪魔の首飾り」に出てくる少女の不気味さに匹敵すると思えた。「ヘレディタリー/継承」でも強く印象に残ったのは、あの妹の不気味な顔とショッキングな運命(と描写)であり、アスターの才能はそういう怖い場面の作りのうまさと気味の悪い物語の組み合わせにあるのだなと思う。

大学生のダニー(フローレンス・ピュー)の妹が両親を道連れに無理心中してしまう。ボーイフレンドのクリスチャン(ジャック・レイナー)とその友人だちはスウェーデンからの交換留学生ペレ(ウィルヘルム・ブロンフレン)の誘いでペレの故郷を訪れる計画を立てており、失意のダニーも同行することになる。ペレの故郷では90年に一度の祝祭が9日間にわたって行われるのだという。ダニーら5人が訪れたホルガと呼ばれる集落は人里離れたヘルシングランド地方にあった。住民たちは親切そうに見えたが、白夜の季節、徐々に奇妙な実態が明らかになっていく。やがてダニーたちは村のショッキングな風習を目の当たりにすることになる。

元々はスウェーデンの製作会社からアスター監督に「スウェーデンの夏至祭を訪れたアメリカ人が悲劇に巻き込まれる民間伝承を基にしたスリラー映画を作りたい」と依頼があったのだという。こんな不気味な映画の舞台にしてスウェーデン国民は怒るんじゃないかと心配になるが、スウェーデンからの依頼なのだから仕方がない。例えば、日本が舞台の「沈黙 サイレンス」(2016年、マーティン・スコセッシ監督)などは残酷な拷問があったり、処刑があったりするので、欧米人から見れば、この映画と似たり寄ったりの未開の地での惨劇に見えるかもしれない。いや、ホルガは外部との交流が少ないにしてもクルマはあるし、未開の地ではない。9日間にわたる祝祭は90年に一度であるにせよ、外部の血は定期的に入れる必要があるだろう。そう考えると、住民全員が独特の信仰なり風習なりを守っているというこの映画の設定は、「ウィッカーマン」の孤島のように、もっと隔絶された地域でないと成立しにくいのではないかと思う。

来日時のインタビューでアスターは日本映画の影響を受けており、この映画の準備期間には今村昌平監督の「楢山節考」「神々の深き欲望」の話がよく出たと語っている。なるほどなと思う。ホルガに伝わる「アッテストゥパン」という風習には「楢山節考」の影響が確かにある。

主演のフローレンス・ピューはこの映画の後に出た「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」でアカデミー助演女優賞にノミネートされた伸び盛りの女優。5人の1人、マークを演じるウィル・ポールターはどこかで見た顔だと思ったら、「デトロイト」(2017年、キャスリン・ビグロー監督)で残虐な警官を演じた俳優だった。

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