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シネマ1987online

マイノリティ・リポート

「マイノリティ・リポート」

別にののしるほどの悪い出来ではないのだが、ディックの短編を単なるミステリにしてしまったスピルバーグというのはいったい何を考えているのか、という感じである。ミステリとして新機軸はないうえに、舞台が未来でなくても成立する話である。未来を描くのであれば、話の展開に少しぐらいSFマインドが欲しいところだった。かつてのスピルバーグなら、映像的にハタと膝を打つうまいシーンが一つぐらいあったものなのだが、この映画には感心した映像は皆無。「A.I.」に続いて気味の悪い描写(「時計じかけのオレンジ」からの引用か)もある。年を取れば、人間、凡庸になる。それを地でいくようなスピルバーグなのである。

2054年のワシントンD.C.が舞台。この時代、犯罪予防局が設置され、殺人は予知することで防げるようになっている。主任刑事のジョン・アンダートン(トム・クルーズ)は3人の予知能力者(プレコグ)の見た映像を分析して未来殺人の容疑者を逮捕している。ある日、プレコグがジョンの殺人場面を予知する。見も知らない男を殺している映像を見たジョンは犯罪予防局から逃げ、事件の真相を探り始める。裏には誰かの陰謀があるようだ。タイトルのマイノリティ・リポートとは3人の予知能力者が出す報告(予知)のうちの少数報告のこと。この予知システムは3人が報告した予知のうち、もっとも多かったもの(多数報告)が採用される。主人公は少数報告に真実があるはずだとデータを調べようとするのだ。原作は70ページ足らずのもので、ディックの短編として特に出来が良いわけではない。

映画はミステリでサスペンスだから当然のように、ヒッチコックの引用も目立つ(「海外特派員」とか)。しかし、犯人が分かった後の描写は極めて手際が悪い。ヒッチコックならば、映画の中盤で犯人を割ってしまい(謎解きなんぞに興味はないから)、そこからサスペンスをたっぷり見せてくれたが、この映画の場合、犯人が分かった後の描写というのは話にオトシマエを付けるためだけのものである。カーティス・ハンソンの某作品と同じような構成であるにもかかわらず(犯人が分かるところなどほとんど同じである)、演出的には随分劣っている。元々の脚本がたとえ、こうであったにしても絶好調のころのスピルバーグならもう少し何とかしただろう。いや、映画を撮る前に脚本を手直ししたはずだ。

スピルバーグは「ブレードランナー」あたりも意識したようで、未来社会は色彩が少ない暗い映像で綴られる。描写はどこかクラシックな雰囲気がある。ということはつまり、目新しい描写、イメージがないのだ。SFX自体は良くできていて、スパイダーと呼ばれる小型の探査ロボットなど面白い小道具だと思うけれど、ただそれだけのことである。なのに2時間25分もある。1時間50分程度の上映時間にしてもっとスピード感を付けるべきだったのではないか。巻き込まれ型のプロットというのは観客に考える暇を与えてはいけない。トム・クルーズは昨年の「ジャスティス」のコリン・ファレル。ファレルはブラッド・ピットを思わせる風貌で、「ジャスティス」よりは良かった。

【データ】2002年 アメリカ 2時間25分 配給:20世紀フォックス
監督:スティーブン・スピルバーグ 製作:ジェラルド・R・モーレン ボニー・カーティス ウォルター・F・パークス ヤン・デ・ボン 製作総指揮:ゲイリー・ゴールドマン ロナルド・シャセット 原作:フィリップ・K・ディック 脚本:スコット・フランク ジョン・コーエン 撮影:ヤヌス・カミンスキー プロダクション・デザイン:アレックス・マクドウェル 衣装デザイン:デボラ・L・スコット 視覚効果スーパーバイザー:スコット・ファラール 音楽:ジョン・ウィリアムズ
出演:トム・クルーズ コリン・ファレル サマンサ・モートン マックス・フォン・シドー ロイス・スミス ピーター・ストーメア ティム・ブレイク・ネルソン スティーブ・ハリス キャサリン・モリス マイク・バインダー ダニエル・ロンドン スペンサー・トリート・クラーク ニール・マクドノー ジェシカ・キャプショー パトリック・キルパトリック ジェシカ・ハーパー アシュレー・クロウ アリー・グロス

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