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マレーナ

「マレーナ」

戦時中のイタリア、シチリア島。村一番の美女マレーナ(モニカ・ベルッチ)に少年レナート(ジュゼッペ・スルファーロ)が狂おしい恋心を抱く。マレーナは結婚して2週間で夫が出征。海岸近くの家に一人で暮らしていた。その美貌と豊満なスタイルは村中の男たちの憧れの的。ただし、女たちからは憎しみの的となっている。という設定の下、ジュゼッペ・トルナトーレ監督は少年の目から見たマレーナの生き方を浮き彫りにしていく。途中まではイタリア映画によくある思春期の少年の性の目覚めを描く映画なのだが、焦点はその美しさのために数奇な運命をたどることになったマレーナにある。

「ニュー・シネマ・パラダイス」以降、高い評価を得ているトルナトーレを、僕はそれほど買っていない。技術的に大したことはない監督で、主に分かり易い大衆性で支持を集めているのだと思う。この映画もほとんどの場面はなんということもない出来である。ただ、今回、マレーナの出奔と帰還を描くくだりのドラマティックな展開には感心した。原作があるので、これがトルナトーレの演出の力かどうかは分からないのだが、少なくともこの描写でマレーナは少年にとって永遠の憧れの女性になったのだと思う。モニカ・ベルッチが伏し目がちに歩く寡黙なマレーナを好演しており、これはベルッチの魅力を堪能するための映画である。そしてトルナトーレは少年の憧れに共感するようにベルッチを美しく撮っている。

トルナトーレは回想の好きな監督のようで、この映画も回想で幕を開ける。レナートは12歳。初めて自転車を買ってもらった日に友人たちに教えられてマレーナの存在を知る。一目でマレーナに惹かれたレナートはその後、マレーナの私生活を見つめるようになる。伏し目がちに歩くマレーナにうっとりとし、マレーナの下着を盗み、幻想の映画の中でマレーナと愛し合う。その感情はエスカレートする一方だ。ある日、マレーナに夫の戦死の知らせが届く。悲しみに打ちひしがれるマレーナに対して、村の男たちはチャンスとばかりに次々にマレーナに言い寄る。生活に困ったマレーナはその中の一人、強引で中年の醜い歯医者の愛人になってしまう。しかしその関係も間もなく破れ、自分から娼婦になる道を選ぶ。髪を染め、厚い化粧を施し、ドイツ軍の相手もするようになるのだ。そして終戦。日頃からマレーナの存在を疎ましく思っていた村の女たちは「ふしだらな女」と非難してマレーナに集団でリンチを加え、村から出ていくよう命じる。傷ついたマレーナは半裸の姿で逃げるように村を出ていくことになる。

マレーナが村を出ていく場面まではそれほど際だった描写はなく、普通の映画である。ここがロバート・マリガン「おもいでの夏」ぐらいの出来なら、映画の評価はもっと高まっていたことだろう。しかし、この後に映画はドラマティックな展開を用意する。戦死したと思われたマレーナの夫は生きていた。戦争で片腕をなくしたうえに家に帰ってみれば、妻はいず、見知らぬ者たちが住んでいる。傷心の夫に対してレナートはマレーナがいなくなった経緯を伝え、夫はマレーナを捜して村を出ていく。そして1年後、村の大通りを夫に腕を絡ませてうつむき加減で歩きながら清楚なマレーナは帰ってくる。村人たちが次々に振り返るこの場面は素晴らしい。村の女たちは「少し目尻にしわができた」などと陰口をたたくのだが、ひどいことをした負い目もあってか、マレーナをようやく受け入れるようになる。さまざまな悲惨な運命にもまれたことを表面に出さず、楚々として存在するマレーナはとても魅力的だ。モニカ・ベルッチはイザベル・アジャーニを思わせる美貌で、演技的にはあまりうまくないようだが、セリフが少ないのが幸いしてか、独特の雰囲気で映画を支えている。

【データ】2000年 アメリカ=イタリア 1時間32分 配給:ギャガ=ヒューマックス
監督:ジュゼッペ・トルナトーレ 製作総指揮:ボブ・ウェインスタイン テレサ・モネオ ファブリツィオ・ロンバルド マリオ・スペダレッティ 原作:ルチアーノ・ヴィンセンツォーニ 脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ 撮影:ラホス・コルタイ 美術:フランチェスコ・フリジェリ 衣装:マウリツィオ・ミレノッティ 音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:モニカ・ベルッチ ジュゼッペ・スルファーロ マティルナ・ピアナ ピエトロ・イタリアーニ ガエタノ・アロニカ

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