It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

ミュージック・オブ・ハート

「ミュージック・オブ・ハート」

ニューヨークのイースト・ハーレムにある公立学校を舞台に、バイオリン教室の存続を図る教師と子どもたちの姿を描く。実話を基にしており、同じ題材を扱ったドキュメンタリーは1996年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされたという。ホラー以外の映画に初挑戦のウェス・クレイヴン監督が丁寧な演出を見せ、主演のメリル・ストリープもいつものように絶妙の演技を見せる。ハーレムでの教育の難しさだけを描いても1本の映画になったと思うけれど、その種の“教育映画”は過去にもいくつか例がある。クレイヴンは主人公ロベルタ・ガスパーリの生き方に焦点を当て、“女性映画”の趣を持つ人間味のある温かいタッチの映画に仕上げた。危機に陥ったバイオリン教室を救うためコンサートの開催を進める後半の描写がやや駆け足になったのは惜しまれるが、まず楽しめる映画になっている。

映画はハーレムのバイオリン教室が軌道に乗るまでと、その10年後、コンサート開催を計画する後半とにはっきり分かれる構成。海軍将校の夫と別居したロベルタ(メリル・ストリープ)は2人の息子とともに故郷のニューヨークに帰ってくる。高校時代の同級生ブライアン(エイダン・クイン)の紹介でハーレムの学校の臨時教師となり、バイオリンのクラスを受け持つ。ロベルタが教師となったのはあくまで生活するためであり、音楽教育への理想を最初から掲げていなかったところがいい。足に障害を持つ少女に向かって「人間は足だけで立つんじゃないの。しっかりとした気持ちで立つのよ」と話すのは自分の素直な気持ちなのである。この場面の前に夫から離婚を申し出る電話があり、ロベルタがショックを受ける場面がある。このセリフは自分に対しても言いきかせているわけだ。前半はハーレムの凄まじい環境を点景に取り入れ、私生活に悩みながら生徒を厳しく指導して、最初のコンサート(というか発表会)を成功させるまでが描かれる。

10年後、ロベルタの教室は3つに増え、1400人の生徒を送り出すまでになっていた。ところがニューヨーク市教委が予算を削ったために存続の危機にさらされる。ここからロベルタの戦いが始まる。生徒の父母の協力を得て、教室存続の資金を得るためのコンサートを企画。ロベルタの教室をテーマにしていた写真家ドロテア(ジェイン・リーヴズ)の夫が有名バイオリニストのアーノルド・スタインハートだったことから、コンサートには有名バイオリニストたちが協力することになる。ニューヨーク・タイムズが教室の危機を報道し、会場もYMCAからカーネギー・ホールへ。話を聞いたホール館長のアイザック・スターンが協力したのだった。カーネギー・ホールでのコンサートという夢のような話を実現させたのはロベルタの個人的人間関係とマスコミを利用したうまい戦略にあったのだろう。

50歳を超えたストリープは体系的にややふっくらし、そのためか、映画から受ける印象も丸くなった感じがする。30代で出ていた「クレイマー、クレイマー」や「ソフィーの選択」のころはうまい女優ではあったけれど、どこかギスギスした感じがつきまとっていた。あのころのストリープでは、厳しいのに優しいというこの映画のような幅のある演技はできなかったと思う。ストリープの演技に支えられた部分が大きい映画だと思う。公立学校の校長役はアンジェラ・バセット、ロベルタの母親役がクロリス・リーチマン。演技力のある女優がそろっている。

【データ】1999年 アメリカ 2時間3分 ミラマックス・インターナショナル提供 配給:アスミック・エースエンタテインメント
監督:ウェス・クレイヴン 製作総指揮:ボブ・ワインスタイン ハーヴィ・ワインスタイン エイミー・スロトニック 原作自叙伝:ロベルタ・ガスパーリ「ミュージック・オブ・ハート」(角川文庫) 原案ドキュメンタリー「ハーレムのヴァイオリン教室」 脚本:パメラ・グレイ 撮影:ピーター・デミング 衣装:スーザン・ライアル 音楽:メイスン・ダーリング 主題歌:グロリア・エステファン&イン・シンク「ミュージック・オブ・マイ・ハート」
出演:メリル・ストリープ アンジェラ・バセット グロリア・エステファン エイダン・クイン ジェイン・リーヴス クロリス・リーチマン キーランン・カルキン チャーリー・ホフハイマー ジェイ・O・サンダース ジョシュ・ペス

TOP