It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

ムーラン・ルージュ

「ムーラン・ルージュ」

始まって間もなく映画がユーモアとラブロマンスを混ぜ合わせたような、スラップスティック調のドタバタな描写を見せるあたりで、ユアン・マクレガーがそれを一掃するようにエルトン・ジョン「僕の歌は君の歌」を高らかに歌い上げるシーンに感心した。いや、ホントにうまい。ニコール・キッドマンも下手ではない(歌声が可愛いので驚く)が、マクレガーに比べると少し劣る。この映画、「サウンド・オブ・ミュージック」や「チルドレン・オブ・ザ・レボリューション」(「リトル・ダンサー」でも使われていましたね)「アイ・ウィル・オールウェイズ・ラブ・ユー」(「ボディガード」)「ライク・ア・ヴァージン」「ダイアモンドは女性の親友」(「紳士は金髪がお好き」)などなど過去の名曲を使ってミュージカルに仕立てている。曲の使い方は悪くないし、それなりの効果も挙げているのだけれど、ミュージカルとしてはオリジナルな歌がほしいところだった。バズ・ラーマン(「ダンシング・ヒーロー」「ロミオ&ジュリエット」)のミュージカル好きは分かるのだが、もっと腰を据えてオリジナルの歌から本格的に取り組んだ方が良かったのではないか。姿勢が安易というわけではなく、惜しいのである。どこか偽物の匂いが付きまとうのだ。

1900年のパリ。作家志望のクリスチャン(ユアン・マクレガー)がアパートでタイプを打っていると、天井からアルゼンチン人が落ちてくる。上の部屋ではトゥールーズ・ロートレック(ジョン・レグイザモ)たちがショーの練習をしていた。脚本を書くことでショーに協力することになったクリスチャンはナイトクラブのムーラン・ルージュに行く。華やかなショーを見せるムーラン・ルージュも実は経営は火の車。オーナーのジドラー(ジム・ブロードベント)は伯爵(リチャード・ロクスボウ)の出資を仰ごうとトップスターで高級娼婦のサティーン(ニコール・キッドマン)に相手をさせようとする。ところが、サティーンはクリスチャンを伯爵と勘違い。一目で気に入ったサティーンは部屋でベッドに誘おうとするが、ここで誤解が明らかになる。しかし一度燃え上がった恋の炎は消せない。伯爵の前では無関係を装いながら2人は秘密の関係を続けるが…。

偽物の匂いというのは全編セットの人工的な空間における撮影も影響している。猥雑な描写が多いことで「ロッキー・ホラー・ショー」との比較をよく見かけるけれども、確かにその通りで、主演の2人を除いてはフリークスのような、あるいはフェリーニ的なメイクアップばかりである。男ばかりで「ライク・ア・ヴァージン」を歌うシーンなどは笑うことはできても、(男性には)視覚的にあまり面白いものではないだろう。女優を夢見る高級娼婦と貧しい作家の恋という単純な物語をごてごてに飾り立てたレビューで見せているわけで、どうも好き嫌いがはっきり別れそうな映画である。

基本的にミュージカルは好きなので、退屈はしなかった。短いカット割りを駆使したバズ・ラーマンの演出も技術的には見事なものである。しかし、わくわくするようなシーンはあまりなかった。ムーラン・ルージュで繰り広げられる絢爛豪華なレビューよりも主演2人のミュージカル的場面の方がよほど好ましく、もっとこういう場面を増やせば良かったのにと思う。サティーンが結核という設定も悲劇的側面を煽るだけで不要だろう。こういう話ならハッピーエンドの方がふさわしい。全体的にどうも日本人には濃すぎるテイストのような気がする。 バズ・ラーマン、ミュージカルに対する愛がどこかねじれているのではないか。

【データ】2001年 アメリカ 2時間8分 配給:20世紀フォックス
監督:バズ・ラーマン 製作:マーティン・ブラウン バズ・ラーマン フレッド・バロン 脚本:バズ・ラーマン クレイグ・ピアース 撮影:ドナルド・M・マカルパイン 音楽:クレイグ・アームストロング 音楽監督:マリウス・デブリーズ 音楽スーパーバイザー:アントン・モンステッド 振付:ジョン・オコーネル 衣装デザイン:キャサリン・マーティン アンガス・ストラティー 
出演:ニコール・キッドマン ユアン・マクレガー ジョン・レグイザモ ジム・ブロードベント リチャード・ロクスボロウ ギャリー・マクドナルド マシュー・ウィテット クリスティン・アヌー ララ・マルケイ カイリー・ミノーグ デオビア・オパレイ

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