It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

メンフィス・ベル

第2次大戦中に空の要塞といわれた戦略爆撃機B17とその乗組員を描いた力作だ。メンフィス・ベルとは、ノルマの25回出撃に初めて成功する爆撃機に付けられた愛称で、映画はその最後の出撃の模様を詳しく描いている。傑作に成り損ねたのは、乗組員10人の出撃前の様子を描く前半が退屈だからだが、クライマックスの爆撃シーンの素晴らしさによって、見終わった後には深い満足感が残る。昨年公開された「スキャンダル」に次いで2作目となる新鋭マイケル・ケイトン・ジョーンズ監督の力量というよりも、これはやはりプロデューサーのデヴィッド・パットナムによるところが大きいのだろう。

実際、前半は話が拡散してしまっている。25回目の爆撃に成功すれば、英雄として国へ帰れるとあって、乗組員たちの写真撮影から映画は始まリ、それぞれのエピソードが綴られていくのだが、どれもありきたりの話で描写の仕方も平板である。10人をそれぞれに取リ上げるのが悪いのであって、一応の主役級であるマシュー・モディンにもっと絞り込めば、良かったかもしれない。演出力の無さはこういうところで分かってしまうのである。

しかし、とにかく後半が見違えるように素晴らしい。最後の任務はドイツ北部の町にある工場を昼間、爆撃することだった。これに向かってバラバラだった10人の話が一挙に収斂してくる。そして爆撃の様子が微に人り細にわたって描写されるのだ。これが凄い。B17は要塞と言われるだけあって、前後左右上下に銃座が備えられている(下部の旋回銃座は「スター・ウォーズ」のミレニアム・ファルコン号を思わせるが、絶対に座りたくない場 所だ)。これだけの装備があれば、無敵の爆撃機に思えるが、その割りには機体がなんと脆いことか。攻撃してきたドイツのメッサーシュミットによって編隊は次々に撃墜される。

機体の前部をもぎ取られて落ちていくパイロットの遠景や、真っ二つになって空中をゆらゆらと漂うB17の姿は哀しさとともに美しさすら兼ね備えている。機体を揺るがす対空砲火の怖さも真に迫ったものだ。SFXが大変良くできておリ、実写と区別がつかないくらいである。メンフィス・ベルもまた旋回銃座を破壊され、銃撃によって乗組員の一人が重傷を負う。さらに帰還の際に車輪が出ないなど、最後までサスペンスフルな展開が用意されている。

この綴密な描写によって映画は反戦、好戦の枠を超えることができた。キネ旬で増淵健が「フェティッシュな映画」と評したのは的を得ていると思う。映画の主役はあくまでもB17という爆撃機なのである。細部へのこだわりが奏功したと言えるだろう。基になったというウイリアム・ワイラー監督のドキュメンタリーも見てみたいものだ。

ただ、猛烈な空爆が線り返された湾岸戦争の折に見たので、気分的には高揚感がなかった。映画で描かれたことと今の現実とがどうしてもオーバーラップしてしまう。爆撃する側の怖さよりも、地上でそれにさらされる側の方が悲惨に決まっているのである。好戦映画にはなっていないものの、「いい気なものだ」と感じられてしまうのである。

パットナムの映画は「キリング・フィールド」も「ミッション」も優れた出来だが、いつも視点に問題があるように思える。取り上げる題材を見ると、この人は一見ハト派のようだが、その仕上がり具合から実はタカ派なのではないかと、僕はひそかに疑っている。現に戦意高揚の意味合いが大きかったと思われるワイラー版「メンフィス・ベル」が、この映画の出発点になっているのだからね。(1991年4月号)

【データ】1990年 アメリカ 1時間47分
監督:マイケル・ケイトン・ジョーンズ 製作:デヴィッド・パットナム キャサリン・ワイラー 脚本:モンテ・メリック 撮影:デヴィッド・ワトキン 音楽:ジョージ・フェントン
出演:マシュー・モデイン エリック・ストルツ テイト・ドノヴァン D・B・スウィーニー ハリー・コニックJr ジョン・リスゴー

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