It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

山猫は眠らない

「ア・フュー・グッドメン」や「セント・オブ・ウーマン」などカタカナのタイトルが氾濫する中、この映画の邦題は一際目を引く。最近の風潮から言えば、単に「スナイパー」となってもおかしくなかった。いかにも冒険小説にありそうなタイトルをつけた映画会社はエライ。内容もまったく冒険小説的であって、ジャングルの死闘はギャビン・ライアル「もっとも危険なゲーム」を彷彿させた。一歩間違えば、「ランボー」シリーズのようになるところだったが、ルイス・ロッサ監督はそれを押しとどめ、狙撃のプロの厳しさと、アマチュアからプロヘ成長する男の物語に収斂させている。外見はB級だが、緊張感が渦巻く内容はA級の出来だ。

トーマス・ベケット(トム・ベレンジャー)は狙撃手として過去に74人の標的を倒してきた経歴を持つ。迷彩服に身を包み、ジャングルの中で1キロ先の標的を一撃で倒す凄腕の持ち主だ。冒頭、小さな村のゲリラ暗殺に成功するが、救出ヘリが予定より早く来たため、相棒が敵の銃弾に倒れてしまう。そのころ、ワシントンでは元オリンピックのライフル射撃銀メダリストでエリート軍人のリチャード・ミラー(ビリー・ゼイン)が暗殺指令を受けていた。標的はパナマの政変を狙うアルバレス将軍とその背後にいる麻薬組織のボス、オチョア。ミラーはベケットと組んで任務に当たることになる。

ジャングル戦の豊富なベケットに対して、ミラーはSWATに所属したことはあるものの、実際には狙撃の経験もない。インディオの依頼を引き受け、計画にはない狙撃を試みる場面で、ワンショット、ワンキルを強調するベケットに対して、ミラーは1発目を外してしまう。階級ではミラーが上司に当たるが、この2人にはプロとアマチュアの差があるのである。アルバレスのいる農場に向かう途中、2人は敵の狙撃手から追撃を受ける。相手はかつてベケットが狙撃を教え、敵に寝返った男だった。ジャングルの中で、手のうちを知り尽くした相手との緊迫の駆け引きが中盤の見どころとなっている。

撮影監督のビル・バトラーがとらえたジャングルの描写もこの映画の大きな魅力の一つだ。光と影を駆使し、心理的に追い詰められるような雰囲気を醸し出している。アメリカ人にとって、このジャングルはベトナムを思い起こさせるだろう。高性能ライフルから発射された銃弾を追い掛けるカメラワーク、超望遠で標的をとらえるスコープの描写もたびたび挟み込まれ、緊迫感を煽っている。2人はようやく目指す農場にたどり着くが、ここで、もうひと波乱あってベケットは敵に捕らわれる。拷問を受け、絶叫を上げるベケット。暗闇の中でミラーは救出に乗り出すが…。

同じ軍の命令を受けていても、「ランボー」とこの映画を分けるのは狙撃手としての在り方が大きなテーマになっているからだ。脚本(マイケル・フロスト・ベックナー、クラッシュ・レイランド)は個人の戦いを中心に据え、国の思惑は背景に過ぎない。ベケットが忠誠を尽くすのは軍に対してではなく、狙撃手としての自分の誇りに対してなのである。

「プラトーン」以来の軍人役であるトム・ベレンジャーが素晴らしい。寡黙で非情なプロを演じきって、代表作と呼べる映画になった。(1993年6月号)

 

【データ】1993年 アメリカ 1時間40分
監督:ルイス・ロッサ 製作総指揮:マーク・ジョンソン パトリック・ワッシュバーガー ウォロン・グリーン 製作:ロバート・L・ローゼン 脚本:マイケル・フロスト・ベックナー クラッシュ・レイランド 美術:ハーバート・ピンター 音楽:ゲイリー・チャン
出演:トム・ベレンジャー ビリー・ゼーン J・T・ウォルシュ

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