007 慰めの報酬
ダニエル・クレイグ版ジェームズ・ボンドの第2弾。前作「カジノ・ロワイヤル」同様にアクションは速く重くキレがある。陸海空といろんな場所で展開されるアクションはどれもこれも充実しており、ボンドの肉弾戦はとても痛そうだ。ボンドは傷だらけになりながら、犯罪組織を追い詰めていく。10分に一度ぐらいはアクションがあり、簡単なストーリーをアクションでつなぐという007シリーズの以前からの構成は少しも変わっていない。しかし、どうもドラマが盛り上がりに欠ける。味わいにも欠ける。ボンドもボンドガールも復讐の意志を秘めた物語なのに、それが設定だけ、即物的なだけに終わっていてエモーショナルな高まりがないのだ。監督は前作のマーティン・キャンベルから「チョコレート」「君のためなら千回でも」のマーク・フォースターに変わった。フォースターならドラマを重点に置くかと思ったら、なんだこの通り一遍の薄っぺらな出来は。ポール・ハギスが加わった脚本自体がまずいのか。
例の銃口の中にボンドが映るオープニングはなく、海を素早く移動するカメラで幕を開ける(銃口の中のボンドはエンドクレジットの前に出てくる)。カメラが陸地に移動すると、ボンドの乗ったアストンマーティンDBSと敵のアルファロメオのカーチェイス。短いカット割りでスピード感を持たせており、そこそこの迫力だが、感心するほどではない。敵を振り切ったボンドはトランクを開け、前作「カジノ・ロワイヤル」でボンドが愛したヴェスパーを操っていたミスター・ホワイト(イェスパー・クリステンセン)に出るように言う。尋問中に巨大な犯罪組織の存在さが明らかになり、その手先はさまざまな場所にいることが分かる。尋問中の情報部員も手先だった。M(ジュディ・デンチ)たちを銃撃し、逃げた情報部員をボンドは必死に追う。
手がかりを求めてハイチに渡ったボンドは謎の美女カミーユ(オルガ・キュリレンコ)に出会う。カミーユは環境NPOのドミニク・グリーン(マチュー・アマルリック)に接近していたが、その目的は自分の両親と姉を殺したメドラーノ将軍に復讐することだった。ヴェスパーの復讐を胸に秘めるボンドはカミーユと行動を共にすることになる。この後、映画はイタリア、オーストリア、そして組織が狙うボリビアの砂漠で展開していく。
背中にケロイドがあるボンドガールのオルガ・キュリレンコは悪くないが、復讐に燃える女に見えないところが残念。しかし一番の問題はクレイグにエモーショナルなものが欠落していることだろう。これはジェイソン・ボーンシリーズと同じ欠点。と思ったらアクション担当の第二班監督ダン・ブラッドリーはボーン・シリーズも担当しているのだった(ブラッドリーはジョン・ミリアス「若き勇者たち」のリメイク版の監督に決まっているそうだ)。ブラッドリーのアクション演出は大したものだが、そうした良くできたアクションに負けないドラマが欲しくなってくる。