her 世界でひとつの彼女
パソコンのOSと男の恋を描くスパイク・ジョーンズ監督作品。アカデミー脚本賞を受賞した。贔屓のエイミー・アダムスとルーニー・マーラが出ているので それだけで満足しても良いのだが、残念ながら2人とも良さを十分に引き出されているとは言いがたい。特にルーニー・マーラ。ホアキン・フェニックスの元妻 役というのは実年齢よりも随分上の役柄ではないか。と思ったら、マーラ、いつの間にか29歳だった。ホアキンは39歳なのでそんなに不自然ではないか。
スパイク・ジョーンズの脚本は後半、SF的な展開になって「おっ」と思った。これは予想していなかった。OSの声を演じるスカーレット・ヨハンソンが実体 化して出てくるのでは、と思って(期待して)いたのだ。あるいはホアキンが電脳空間に入っていくとか。SF的な展開をメインにしてくれると、もっと好みの 映画になっていたと思う。要するにSF度が足りない。ラブロマンスを期待していた人にもこの展開、あまり気に入らないのではないかと思う。
いずれにしても落としどころの難しい話ではある。PCが人間に恋心を抱く映画としてはディーン・クーンツ原作の「デモンシード」(1977年)や「エレク トリック・ドリーム」(1984年)がある(「デモンシード」は恋心どころじゃなく、コンピューターのストーカー行為に近かった)。この2本はどちらも PC側が男の設定だ。ジョーンズの工夫はPC側を女にしたことで、映画の本領は姿形よりも話が合うかどうかが恋の決定的な理由であることを描いている点に ある。しかし、やっぱり話の決着の付け方に少し不満は残る。
監督デビュー作の「マルコヴィッチの穴」もSF的な設定だったが、スパイク・ジョーンズの本質はSFではなく、奇妙な味だろう。必要以上にSFを期待してはいけないのである。