WASABI
「TAXi2」のジェラール・クラヴジック監督、広末涼子、ジャン・レノ共演のアクション。同じリュック・ベッソン脚本・製作でも「キス・オブ・ザ・ドラゴン」とはまったく異なる味わいで、あちらが大人の映画とすれば、こちらは広末涼子のイメージ通りどこか幼い映画である。テレビの2時間ドラマかと思うような安直なストーリーに凡庸な演出。おかしなファッションの広末といつも通りのジャン・レノは悪くないが、どちらも本来の魅力を引き出しているとは言い難い。一番いけないのは脚本に日本への理解が不足していることで、誤解に満ちた描写が目に付く。ベッソンの脚本の不備を正す日本人スタッフが必要だったのだろう。監督のジェラール・クラヴジックも、つくづく才能がないのだなと思う。光っていたのはエリック・セラの音楽のみだった。企画、即実行というベッソンのプロダクションは認めるけれど、逆に言えば、製作姿勢が安易に陥る場合もあるわけである。
パリの刑事ユベール(ジャン・レノ)が捜査中に署長の息子を殴って大けがをさせ、休暇を命じられる。ユベールは19年前に別れた日本人女性小林ミコのことをまだ忘れられないでいる。当時、情報機関に勤務し、日本に滞在していたユベールの前からミコは突然姿を消した。わずか8カ月の付き合いだった。そんな時、ユベールにミコが死んだとの連絡が入る。ミコは遺言の立会人にユベールを指定していた。ミコにはユベールとの間にできた一人娘ユミ(広末涼子)がいることも分かる。日本に飛んだユベールは弁護士からユミが 20歳になるまで面倒を見るようにとのミコの遺言を告げられる。ユミはあと2日で20歳。ユベールは父親であることを隠して2日間、面倒を見ることになる。ミコの死には不審な点があり、銀行口座には2億ドルの預金があった。その上、何者かがユミの命を狙ってくる。ユベールは以前の相棒モモ(ミシェル・ミューラー)とともに謎を探り始める。
ジェラール・クラヴジック監督は「TAXi2」でも(変な)日本人を登場させていたので、ベッソンとしては日本人つながりで演出をまかせたのかもしれない。しかし日本の描写は表面をサラーっと流しただけで、よくあるカルチャー・ギャップの上に成り立った誤解に満ちた作品と変わらない(ワサビをあんな風に食べるのは奇人変人だけだろうし、預金の2億ドルという金額もリアリティーに欠ける)。これがパリが舞台なら、もう少しましになったのではないか。外国を舞台にした映画は難しさがつきまとうものだ。「TAXi2」と同じくとぼけたユーモアがあるけれど、センスは今ひとつ感じられない。日本の俳優も広末だけでなく、もっと名のある人を使えばよかったのにと思う。
クラヴジックの次作は「TAXi3」という。基本的にはああいうスラップスティック系の監督なのだろう。ユベールが父親であることをユミが知る場面など、ドラマティックになるべき場面が効果を挙げていないのはそのためか。だいたい、8カ月つき合った後に別れて19年と言えば、広末の役が20歳直前なのも計算は合うが、別れる前には既に妊娠中期以降だったはず。それに気づかなかったというのではユベール、バカだ。ユベールの現在の恋人役でキャロル・ブーケが出演。これは、もう少し出番が欲しかった。
【データ】2001年 フランス 1時間35分 配給:K2 日本ビクター
監督:ジェラール・クラヴジック 製作:リュック・ベッソン 脚本:リュック・ベッソン 撮影:ジェラール・ステラン 美術:ジャック・ブフノワール ジャン=ジャック・ジェルノール 衣装:アニエス・ファルク 音楽:エリック・セラ、ジュリアン・シュルタイス
出演:ジャン・レノ 広末涼子 ミシェル・ミューラー キャロル・ブーケ リュドヴィク・ベルシロ ヤン・エプスタイン ミシェル・スコーノー ジャン・マルク・モンタルト