TAXi2
「リュック・ベッソンのバランス感覚は好ましいし、映画の出来も決して退屈ではないのだけれど、どうも盛り上がりに欠ける。新鮮味がないのである。カーアクションにスラップスティックを絡め、1時間29分をただ飽きさせずに見せるだけ。設定も出演者も素材はいいのに、どうしてもう少し面白くできないのかと少し不満が残る。監督のジェラール・クラヴジックだけに責任を押しつけるのはかわいそうで、ベッソンの脚本自体にも散漫な部分が目に付き、その場その場のおかしさで終わってしまっている。ベッソンはアメリカ映画にかなりの影響を受けていると思うが、最近のアメリカのスラップスティックのつまらなさまで真似する必要はなかった。ただし、「ロペラシオン ニンジャー(忍者作戦)!」と珍妙なアクションで叫ぶ警察署長役ベルナール・ファルシーのおかしさだけは大いに認める。途中で活躍の場がなくなるのが残念なほどのおかしさなのである。
日本の防衛庁長官がヤクザ対策でフランスに視察に来る(なぜ防衛庁がヤクザ対策を担当するんですか)。主人公のタクシー運転手ダニエル(サミー・ナセリ)はひょんなことから恋人リリー(マリオン・コティヤール)の父親ベルティーノ将軍(ジャン・クリストフ・ブーヴェ)を空港まで送っていくことになる。ダニエルの愛車はパワーアップしたプジョー406。時速306キロでかっ飛ばし、防衛庁長官が到着する空港にぎりぎりで間に合う。その腕を見込まれて、ダニエルは長官を特殊警護カー“コブラ”でパリまで送るよう命じられる。警護に当たるシベール署長はコブラの性能を印象づけるため、途中で偽の攻撃隊を用意していた(これが忍者作戦)が、そこに謎の日本部隊が出現。長官を連れ去ってしまう。警護のエミリアン刑事(フレデリック・ディーファンタル)が思いを寄せるペトラ刑事(エマ・シューベルイ)も一緒に連れ去られ、ダニエルとエミリアンたちは必死のカーチェイスを展開する。
謎の日本部隊はヤクザで、長官に催眠術をかけ、大統領を暗殺させようと目論んでいた。それで日仏の関係を悪化させようという計画。日本といえば、忍者という発想自体は貧弱だが、登場する日本人が話す言葉におかしな部分はあまりない。忍者のアクションとペトラ刑事のカンフー(と思う)もなかなかである。それなのに何だか引き締まらない映画になったのはやはり構成に難があるのだろう。ダニエルが将軍から延々と戦争の話を聞かされる場面やエミリアンが自動車免許を取得するくだりなど本筋にかかわらない場面はもっと短く簡潔に描くべきだった。1時間29分という短い上映時間だからこそ濃密な構成が必要で、緩い話だから構成も緩くていいというわけではないのである。
だいたいカーアクションの映画というのは難しい。近く公開される「60セカンズ」もひどい批評を聞くし、その元ネタとなった「バニシングin"60」も公開当時あまりのつまらなさに唖然としたのを覚えている。たいていのカーアクションは過去に既に例があり、オリジナルなアクションを新たに考えるのは容易ではないのだ。それを考えれば、「TAXi2」はまだましな方ではある。前作ではドイツ車(メルセデス)が悪役で、今回は日本車(三菱のランサー)。製作が予定されているという第3作ではアメリカ車かイタリア車が登場するのだろうか。
【データ】2000年 フランス 1時間29分 リールー・プロダクションズ 配給:日本ヘラルド映画
監督:ジェラール・クラヴジック 製作・脚本:リュック・ベッソン 撮影:ジェラール・ステラン 美術:ジャン・ジャック・ジェルノル 音楽:アル・ケムヤ
出演:サミー・ナセリ フレデリック・ディーファンタル マリオン・コティヤール エマ・シューベルイ ベルナール・ファルシー ジャン・クリストフ・ブーヴェ ツユ・シミズ