It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

X-メン

「X-メン」

冒頭にナチス収容所で両親と引き離される少年の姿が描かれる。この少年が後に人類を滅ぼそうとするマグニートー(イアン・マッケラン)であり、マグニートーが人類に持つ憎しみの理由を象徴させたわけである。ただこの場面、直接的にミュータントへの差別と迫害を描いた方が良かったような気がする。ナチスの行為を人類全体に敷衍するには少し無理があるのではないか。マグニートーが体験した不幸はミュータントだったからではなく、ユダヤ人だったからで、個人的な復讐ならば、その対象はナチスの方に向かうはずなのである。「ユージュアル・サスペクツ」「ゴールデンボーイ」のブライアン・シンガーが監督した「X-メン」はこのように単なるSFアクションに終わらせない含みを持たせてはいるものの、ほんの少しポイントがずれている。非常に惜しい。ニュータイプがテーマだった「ガンダム」と共通するところがあるけれど、迫害と差別、あるいは新しい人類の覚醒をもっと深く掘り下げないと、せっかくのテーマなのに取って付けたような印象しか受けない。出演者やSFXが魅力的なだけに残念な作品と思う。

原作は1963年に始まったアメリカン・コミックス。登場人物はかなり多いそうだが、映画はX-メンもマグニートー一味(「ブラザーフッド」というらしい)も数人に絞り込んである。これがスケール感を欠くことにもつながった。映画の中心となるのは全身に超合金アダマンチウムを埋め込まれたウルヴァリン(ヒュー・ジャックマン)と、人に触れるとその人の生命力や能力を奪ってしまうローグ(アンナ・パキン)。自分の能力に嫌気がさして家出したローグは場末の酒場でその日暮らしのストリート・ファイトを続けるウルヴァリンと出会う。一緒にトラックで走行中、マグニートー一味のセイバートゥース(タイラー・メイン)に襲われる。危機一髪の瞬間、X-メンのサイクロップス(ジェームズ・マーズデン)とストーム(ハル・ベリー)が救出した。X-メンはミュータントと人類の共存を願うプロフェッサーXことエグゼヴィア教授(パトリック・スチュアート)が作った組織。迫害を受けるミュータントの子どもたちの受け入れ先ともなっている。一匹狼が性分のウルヴァリンは反発しながらも、X-メンと行動を共にする。

マグニートー一味の狙いはローグの能力にあり、人類をミュータントに変える装置を操らせようとしている。映画は後半、ローグの争奪戦が展開される。これに絡んでくるのがミュータントを人類の脅威として登録法案の成立を画策する上院議員ロバート・ケリー(ブルース・デイビソン)。ケリーはX-メンにとってもマグニートーにとっても敵対関係ということになる。黒ずくめのコスチュームがスタイリッシュなX-メンたちに比べて、マグニートー一味の方はセイバートゥースもトード(レイ・パーク)もミスティーク(レベッカ・ローミン・ステイモス)もまるで怪物のような存在。分かり易いとはいうものの、これではちょっと幼稚である。

原作ではそれぞれのミュータントの過去も描かれているらしい。上映時間の関係で映画ではウルヴァリンに絞られる。ウルヴァリンは何者かによって全身に金属を埋め込まれたらしいが、その際の記憶は消されている。その秘密は映画では明らかにならず、恐らく作られるであろう次作に持ち越しとなった。これは絶対、続編を作って欲しいものである。ウルヴァリンを演じるヒュー・ジャックマンは若い頃のクリント・イーストウッドを彷彿させるが、イーストウッドほど演技に幅が感じられない。次作までにもう少し演技力に磨きをかける必要があるだろう。パトリック・スチュアートとイアン・マッケランは重厚さを感じさせ、映画に風格を与えている。ジーン・グレイ役のファムケ・ヤンセンをはじめ女優陣は良かった。

【データ】2000年 アメリカ 1時間44分
監督:ブライアン・シンガー 製作:ローレン・シュラー・ドナー ラルフ・ウィンター ストーリー:トム・デサント ブライアン・シンガー 脚本:デイヴィッド・ハイター 製作総指揮:アヴィ・ライド スタン・リー リチャード・ドナー トム・デサント 撮影:ニュートン・トーマス・シーゲル プロダクション・デザイナー:ジョン・マイヤー 視覚効果スーパーバイザー:マイケル・フィンク 特殊メーキャップ・デザイン:ゴードン・スミス 音楽:マイケル・ケイメン 衣装デザイナー:ルイース・ミンゲンバック
出演:ヒュー・ジャックマン パトリック・スチュアート イアン・マッケラン ファムケ・ヤンセン ジェームス・マーズデン ハル・ベリー アンナ・パキン タイラー・メイン レベッカ・ローミン・ステイモス ブルース・デイビソン マシュー・シャープ ブレット・モリス ロナ・シェクター ケネス・マクレガー シャーン・ロバーツ ドナ・グッドハンド ジョン・E・ネルズ ジョージ・ブザ

TOP