JSA
朝鮮半島を分断するJSA(共同警備区域=板門店)で起きた殺人事件を中立国監督委員会のスイス軍女性将校が捜査する。事件の背景にあるのは南北分断の悲劇で、韓国では「シュリ」を上回る大ヒットを記録したそうだ。荒削りだった「シュリ」より演出的に洗練されており、緊張感とユーモアを巧みに織り交ぜた語り口はなかなか魅力的である。ただし、「シュリ」を見た時のような驚きは感じなかったし、3パートに分かれた構成がやや単調。真ん中のパートの回想がやや長すぎるのである。もちろん、韓国の風俗に密着した描写などは僕には分からないし、寅さんシリーズの細部が日本人にしか理解できないように、この映画も韓国人にしか分からない部分が多いのだと思う。しかし分断の悲劇と祖国統一への熱い思いを訴えた「シュリ」よりも、この映画が思いの部分で勝っているとは思えない。映画のヒットは公開が歴史的な南北首脳会談の直後だったことと無関係ではないだろう。北の兵士も同じ血の通った人間であることを理解し、南北の兵士が秘かに友情を深め合うという物語は南北の交流促進の機運とぴったり重なっている。
板門店の北朝鮮側歩哨所で北朝鮮兵士2人が殺され、1人がけがをする。スイス軍女性将校ソフィー・チャン(イ・ヨンエ)は中立国監督委として捜査に当たる。けがをした北の士官ギョンピル(ソン・ガンホ)と殺人犯とされた南の兵長スヒョク(イ・ビョンホン)を取り調べるが、2人の言い分は異なり、事件は藪の中的様相。ソフィーは現場に残された弾丸の数に不審を抱き、現場にはもう一人の人物がいたことを突き止める。その人物は韓国の一等兵ソンシク(キム・テウ)らしい。しかし、ソンシクは取り調べの最中、窓から身を投げてしまう。地面にたたきつけられたソンシクの長い回想で事件の真相の前半部分が描かれれる。ここがちょっと不満。やはり、ソフィーの捜査で真相が分かるよう描きたかったところだ。事件の背景にはスヒョクとギョンピルの国境を越えた交流があった。スヒョクは任務の最中、北朝鮮側に誤って入り込み、地雷を踏む。それを助けたのがギョンピルとその部下ウジン(シン・ハギュン)だった。北朝鮮兵士の人間性に触れたスヒョクは北朝鮮側歩哨所に遊びに行くようになり、ソンシクもまたそれに同行、南北の兵士4人は次第に交流を深めていったのだった。ソフィーは取調中の容疑者に自殺されたことから危うい立場に陥る。しかも父親が北朝鮮出身だったことが分かり、監督委から解任を通告されてしまう。ソフィーはギョンピルの身分を保障することを条件にスヒョクに真相を話すよう説得するが…。
3つに分かれたパートのうち、真ん中の回想部分の描写が韓国では支持されたのではないか。ここは緊張感に満ちた前後のパートと異なり、ユーモアあふれる描写が多い。ギョンピルの人間的な魅力に惹かれ、兄貴と呼ぶようになるスヒョクの姿は統一を願う国民の思いと一致しているのだろう。4人の交流は結局、体制に縛られた意識から破局を迎えてしまう。「シュリ」の場合、南も北もその体制そのものが悪いという方向に話を振ったのが新しかったのだが、この映画の場合は悲劇で終わっている。むろん、この映画のような悲劇を生まないためにも交流促進と統一が望ましいという願いは浮かび上がってくるのだけれど、結論としては常識的なのである。パク・チャヌク監督の演出はしっかりしており、欧米のアクション映画の影響が顕著だった「シュリ」を完成度では上回りながら、今ひとつ印象が薄いのはそんなところにも原因があるようだ。もう一つ、事件の真相に当たる兵士の行動そのものが僕には説得力を欠くように思えた。これは単にキャラクターの描写不足のためだと思う。
板門店に韓国人は立ち寄れず、もちろん映画のロケなども許されるはずはないので、すべて野外セットを組んだという。このセットはリアルで見事。美貌の女性将校を演じたイ・ヨンエ(映画2作目だそうだ)をはじめ主演3人もとても魅力的である。
【データ】2000年 韓国 1時間50分 配給:シネカノン アミューズピクチャーズ
監督:パク・チャヌク 製作:イ・ウン シム・ジェミョン 原作:パク・サンヨン「共同警備区域JSA」(文春文庫) 脚本:キム・ヒョンソク チョン・ソンサン イ・ムヨン パク・チャヌク 撮影:キム・ソンボク 主題歌:「二等兵の手紙」「宛のない手紙」キム・グァンソク
出演:ソン・ガンホ イ・ビョンホン イ・ヨンエ キム・テウ シン・ハギュン