オデッセイ
アンディ・ウィアーの原作「火星の人」は科学的設定に基づくハードSFに分類されるものだが、主人公のポジティブで楽天的な性格がとても魅力的で、ハードSFを読んでる 感じがしない。映画で主人公を演じるマット・デイモンよりも若く、20代の印象を受ける(原作のワトニーがよく言う「イェイ!」なんてデイモンは言わない だろう)。しかしデイモン、終盤には食料を切り詰めた末にすっかり痩せた体を披露するなど好演しているのは間違いない。アカデミー主演男優賞にノミネート されたのも不思議ではない。
物語は火星の有人探査計画「アレス3」に参加した主人公ワトニーが砂嵐に巻き込まれて行方不明になり、火星 にたった一人で取り残されるのが発端。食料も水も酸素もわずしかない中、ワトニーは植物学者の知識を生かして基地の中でジャガイモを栽培し、水を作り、 1997年の無人探査機マーズ・パスファインダーを掘り起こして地球と通信できるようにする。多数の困難と障害を一つ一つクリアしながら生き延びるのだ。 原作の後半にあるさまざまな障害を映画はカットしているが、これは懸命な判断。そこまで描いていたら2時間22分ではとても足りなかった。
火星でのワトニーの孤軍奮闘と地球にいるNASAのスタッフ、ワトニーが死んだと思い込んで地球に帰還する途中の「アレス3」のクルーたちの努力と葛藤を 描きながら、映画はクライマックスに向かう。このドラマの構成もスコット、手慣れたもので胸が熱くなる描写がちゃんと用意されている。この救出劇には恐ら く数億ドル以上の費用がかかったはず。現実的に考えれば、たった一人を救うためにそこまで予算をかけるかという疑問は残るが、だからこそ感動的になってい る。
アレス3の船長役にジェシカ・チャステイン、NASAのスタッフをキウェテル・イジョフォー、ジェフ・ダニエルズ、ショーン・ビー ンらが演じていずれも好演。衛星写真担当で最初にワトニーが生きていることを発見するミンディ・パーク役のマッケンジー・デイビスにはもう少し見せ場が欲 しかった。
ワトニーは船長が残したディスコ・ミュージックを(ほかに音楽がないので)いやいや聴き続けるが、エンドクレジットに高らかに流れる音楽は「恋のサバイバル(I Will Survive)」。こんなにピッタリの曲はないだろう。