エクス・マキナ
タイトルは「デウス・エクス・マキナ」(機械仕掛けの神)に由来するのだろう。設定はSFだが、展開はミステリーの趣向が強い。舞台は人里離れた山あいの邸宅、主要キャストは4人。こうくれば、ミステリーにしてもおかしくはない。ただ、中盤までは人間とAI(人工知能)をめぐる思索的なセリフがあり、主人公が次第に混乱して自分をアンドロイドではないかと疑う場面は「アンドロイドは電機羊の夢を見るか」(「ブレードランナー」原作)などフィリップ・K・ディックのSFを思わせる。AIを搭載する女性型アンドロイドのエヴァに扮するアリシア・ヴィキャンデルが映画の大きな魅力で、このキャスティングが成功の要因の一つになっている。
世界最大の検索エンジン会社ブルーブックに勤めるプログラマー、ケイレブ(ドーナル・グリーソン)が社内の抽選に当たり、CEOネイサン(オスカー・アイザック)の邸宅に招かれる。ヘリで送られた邸宅は雄大な自然の中にあり、秘密保持のため堅固なセキュリティーが防備されていた。ネイサンの狙いは自分が開発した女性型アンドロイドに搭載したAIのチューリング・テストだった。チューリング・テストとは「イミテーションゲーム」で描かれた天才数学者アラン・チューリングが1950年に考案したテスト。ある機械が知的かどうかを判定するために判定者が機械に話しかけ、その受け答えが本物の人間とまったく区別がつかなければ、知能を持つと判定する。ネイサンはその判定者の役割をケイレブに託した。
エヴァは顔の前面だけに人間のような皮膚を持ち、あとは機械の骨格が透けて見えるデザイン。ガラス越しにエヴァと対面したケイレブは会話をしていくうちに、エヴァに惹かれていく。エヴァが洋服を身につけると、人間と見分けが付かなかった。ネイサンによると、エヴァは性行為もできるように作られているという。停電でカメラの監視が途切れた短い時間にエヴァは「ネイサンを信用しないで」と話す。停電はエヴァが起こしていた。ケイレブはエヴァがネイサン以外で初めて会う人間の男で、エヴァはケイレブの微小表情を読み取り、ケイレブが自分に好意を持っていることを知る。エヴァもケイレブに好意を感じているようだった。エヴァに魅了されたケイレブはエヴァを部屋の外に出すためにある計画を実行しようとする。
邸宅にはもう一人、ネイサンの世話をする日本人のキョウコ(ソノヤ・ミズノ)がいるが、英語を話せない。次第に接近するケイレブとエヴァの関係を見ると、「her 世界でひとつの彼女」のように人間と機械の恋愛感情を描くのかと思ってしまうが、映画は終盤、ケイレブとエヴァとネイサンのそれぞれの思惑によってストーリーが意外な方向に展開していく。
映画は第88回アカデミー賞で「マッドマックス 怒りのデス・ロード」「オデッセイ」「レヴェナント 蘇えりし者」「スター・ウォーズ フォースの覚醒」を抑えて視覚効果賞を受賞した。アンドロイドの造型が大変優れていて、受賞も納得できるのだが、終盤にあるヴィキャンデルの全裸もVFXなのではないかと思えてくる。あれだけ完璧なアンドロイドを描けるのなら、女性のヌードのVFXぐらい簡単だろう。自分がアンドロイドではないかと疑い、カミソリで腕を切る主人公と同じく、観客もどれがVFXでどれが本物か疑心暗鬼になるのだ。
現代的な装飾をはぎ取ってみると、基本的なプロットは「フランケンシュタイン」から連なるマッドサイエンティストものと言うことができるだろう。脚本・監督は「28日後…」「わたしを離さないで」などの脚本で知られるアレックス・ガーランド。これが初監督作だが、静謐なタッチと的確な演出を見せている。