アイアンマン2
「私が作った最高の作品はお前だ」。父親のハワードが残したフィルムの中で話すのをトニー・スターク(ロバート・ダウニー・ジュニア)が聞くシーンがある。父親と息子の関係を描いて良いシーンなのだが、ジョン・ファブロー監督はこのあたりを前面に持って行く気はあまりないらしく、その後はほとんど忘れ去られたシーンになってしまう。VFXをはじめビジュアル的には文句ないのだが、こういうドラマの根幹をさらりと描いていることが演出に大味さを感じる要因か。ドラマティックな盛り上がりにやや欠けるのだ。
とはいってもダウニー・ジュニアのキャラにマッチした主人公は軽薄で楽しく、おかしく、娯楽作品としてはまず合格点。クライマックスに大挙登場する無人のパワードスーツ、つまりロボットたちはガンダムの影響を感じさせる造型で、これはロボットアクションとして見てもなかなか面白い。
前作から2年ぶりの続編である。個人的に1作目はその年のベストテンに入れるほど好きだった。今ではすっかりおなじみになったパワードスーツ(強化防護服)という概念はロバート・A・ハインライン「宇宙の戦士」に端を発すると言って良いと思うが、その映画化であるポール・バーホーベン「スターシップ・トゥルーパーズ」ではパワードスーツがまだ描けなかった。「アイアンマン」ではVFXの進歩とともにそれが普通に描けるようになったのが嬉しかったし、映画にユーモアが混在していたのが良かった。
今回も映画のタッチは前作と変わらない。新たな敵はスタークとその父親に恨みを持つロシア人のウィップラッシュ(ミッキー・ローク)と、兵器商人のジャスティン・ハマー(サム・ロックウェル)。これにパワードスーツの動力源であるアーク・リアクターがスタークの体をむしばむという設定が加わる。内外の敵にアイアンマンはどう挑んでいくのか。
トニー・スタークというキャラクターがマーベル・コミックスの原作でも極めてお気楽なキャラであるかどうかは知らないが、映画ではダウニー・ジュニアが演じることで、キャラクターに人間的な幅が出ている。天才的な頭脳を持つ富豪でありながら、親近感が持てるのはそのためだ。ダウニー・ジュニアは「シャーロック・ホームズ」でも前例がないようなホームズを演じていたが、キャラクターを自分に引き寄せて演じるメリットはこの映画でもうまくいっていると思う。
特筆すべきは新キャラクターのブラック・ウィドーことナタリー・ラッシュマンを演じるスカーレット・ヨハンソンのアクションで、ほとんど吹き替えだろうが、ぴっちりした黒のコスチュームを着た抜群のスタイルが躍動する姿はほれぼれするほど。3作目にも引き続き出て欲しいところだ。
気になるのは前作に続いて登場するニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)。アイアンマンのほかハルクなどスーパーヒーローを集めたアベンジャーズの構想を語るのだけれど、これの映画化は実現するのだろうか。