エネミー・ライン
ボスニアを舞台に繰り広げる戦争アクション。撃墜された米海軍偵察機のパイロットが敵のセルビア人勢力の支配地域(Behind Enemy Line)を必死に逃げ回る。それを上官(ジーン・ハックマン)が救出しようとする、という設定はまるで「スパイ・ゲーム」のよう。映画デビューでCM、MTV出身の31歳ジョン・ムーア監督は的確な絵づくりができ、特に地対空ミサイルによる撃墜場面の圧倒的なカット割りとSFXはMTVで培った手腕を発揮したものだろう(樋口真嗣が「206秒に176カット 脅威のモンタージュ」とパンフレットで分析している)。このほか、アクション場面はどれも見応えがある。単なるアクション映画としてみれば、(一部にデビュー作としての傷はあるが)よくできた映画である。ただ、ボスニアが舞台というのがどうも気になる。和平交渉の裏でセルビア人は民間人の虐殺を繰り返しているという設定が事実に基づくものかどうか知らないが、セルビア人を残虐な敵という風に単純化してとらえる「ランボー」シリーズ的な視点は安易である。きっとハリウッドはアフガンを舞台にした映画もそのうち撮るだろう。
アドリア海に停泊中の原子力空母で、NATO軍撤退間近のボスニア偵察飛行だけを繰り返すクリス・バーネット大尉(オーウェン・ウィルソン)は不満を募らせていた。退役を2週間後に控え、司令官レスリー・レイガート(ジーン・ハックマン)に海軍を辞めると告げる。クリスマス・パーティーの途中、偵察命令が下ったクリスは相棒のスタックハウス(ガブリエル・マクト)とともに偵察任務に出る。ところが秘かに部隊を集結していたセルビア人勢力が地対空ミサイルを発射。偵察機は撃墜されてしまう。スタックハウスは脱出の際に足に大けが。クリスが仲間に連絡を取ろうと現場を離れた際、セルビア人勢力がスタックハウスを処刑、クリスの存在にも気づき、追撃してくる。クリスは敵地の中を必死に逃げ回ることになる。レイガートは和平交渉を重視し、救出作戦に消極的な上層部と対立しながら救出作戦を展開するが、クリスが殺されたとの誤った情報がマスコミで流れ、作戦はストップしてしまう。
「プレデター」「プレデター2」「エグゼクティブ・デシジョン」のジェームズ・トーマス&ジョン・トーマスの原案をデヴィッド・ペローズ(ナチュラル・ボーンキラーズ」)とザック・ペン(「シャンハイ・ヌーン」)では役不足。どうも甘さが残る顔立ちなので有能な兵士には見えない。もう一人のパイロットを簡単に処刑し、執拗に主人公を追撃するセルビア人ウラジミール・マシュコフの方が顔に凄みがあるので、ウィルソンがマシュコフに勝てるとはとても思えないのである。
【データ】2001年 アメリカ 1時間46分 配給:20世紀フォックス
監督:ジョン・ムーア 製作:ジョン・デイビス 脚本:デヴィッド・ベローズ ザック・ペン ストーリー:ジェームズ・トーマス ジョン・トーマス 撮影:ブレンダ・ガルビン プロダクション・デザイン:ネイサン・クローリー 音楽:ドン・デイビス 衣装:ジョージ・L・リトル
出演:オーウェン・ウィルソン ジーン・ハックマン ガブリエル・マクト チャールズ・マリク・ホイットフィールド ホアキン・デ・アルメイダ デヴィッド・キース オレック・クルパ ウラジミール・マシュコフ マルコ・イゴンダ ジョフ・ピアソン