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シネマ1987online

アザーズ

「アザーズ」パンフレット

霧に包まれた屋敷を舞台にしたゴシック・ホラー。ストーリーの仕掛けは途中で分かった(分かるように作ってある)ので、怖さが半減したのだが、その後もう一度怖くなり、最終的には親子の愛情で締め括られる。この物語のパターン自体は過去にもあった類のものだけれど、こういう話の中では最高の部類に入るのではないか。光を遮られた暗い屋敷、屋敷に響く足音や笑い声、どこか不気味な使用人たち、そして美しいヒロイン。「オープン・ユア・アイズ」のアレハンドロ・アメナーバル監督は、そうしたよくある舞台設定を効果的に使い、ミステリアスで端正な感じを与える悲劇的なホラー映画に仕立てた。アメナーバルの手腕、侮れないと思う。しかし、アメナーバルの演出以上にニコール・キッドマンには感心した。あのスタイルの良さ、体の線の細さには驚かされるし、額に眉を寄せた神経質そうな演技がなかなか物語に合っている。キッドマンでなければ、映画の面白さは随分損なわれただろう。主演女優の魅力と演技の説得力が映画の出来に大きく貢献した好例と言える。

早朝を切り裂くような女の悲鳴で映画は幕を開ける。1945年のイギリス、チャネル諸島の屋敷に暮らすグレース(ニコール・キッドマン)の悲鳴だ。グレースは1年半前に戦場に行った夫の帰りを2人の子どもとともに待っている。子どもはどちらも日光アレルギーのため、屋敷の窓にはいつも厚いカーテンが引かれている。ある日、3人の訪問者がやってくる。新聞の募集記事を見て、使用人として応募してきたミセス・ミルズ(フィオヌラ・フラナガン)、リディア(エレーン・キャシディ)、ミスター・タトル(エリック・サイクス)の3人だった。リディアは過去のショッキングな出来事が原因で言葉をしゃべることができない。やがて屋敷の中では不気味なことが起こり始める。笑い声や足音が響き、ピアノが独りでに鳴り出す。グレースはミセス・ミルズたちと屋敷の中を探し回り、1冊の古いアルバムを見つける。それは死者の姿を写した写真が収められていた。家の中には亡霊がいる。グレースは教会の力を借りようと、街に向かうが、深い霧に阻まれる。そして、帰りを待ちわびていた夫が霧の中から姿を現した。

パンフレットの封印した部分の解説で滝本誠がヒッチコック「レベッカ」を引き合いに出している。クラシックなゴシック・ホラーの趣だからだが、「レベッカ」の場合、屋敷に来た女が死んだ前妻の影に脅える話なのに対して、この映画は元々屋敷にいる家族がある日、亡霊の影に震えるようになる。この怖がらせ方がなかなかうまい。殺人鬼や怪物が人を殺して回るだけの下品なホラーと違い、家の中の物音や人の笑い声から徐々に恐怖を高めていく。子どもがかぶっているはずのベールの中から老婆の手が出ているところなど、視覚的にも怖い。

グレースがことの真相を知る終盤、映画は悲劇的な様相を帯びる。ホラーからの転化が見事だ。グレースの「絶対にこの家を離れない」とのセリフは、この家族に起こった悲劇をくっきりと浮き彫りにしている。アメナーバルの情緒的なタッチは好ましい。

【データ】2001年 アメリカ=フランス=スペイン 1時間44分 配給:ギャガ=ヒューマックス
監督:アレハンドロ・アメナーバル 製作:フェルナンド・ボヴァイラ サンミン・パーク エグゼクティブ・プロデューサー:トム・クルーズ ポーラ・ワグナー ボブ・ウェインスタイン ハーヴェイ・ウェインスタイン リック・シュワルツ 脚本:アレハンドロ・アメナーバル 撮影:ハビエル・アギーレサロベ 音楽:アレハンドロ・アメナーバル 美術:ベンジャミン・フェルナンデス 衣装:ソニア・グランデ 特殊効果:フェリックス・ベルゲス
出演:ニコール・キッドマン フィオヌラ・フラナガン クリストファー・エクルストン アラキナ・マン ジェームズ・ベントレー エリック・サイクス エレーン・キャシディ ルネ・アシャーソン アレクサンダー・ビンス キース・アレン ミシェル・フェアリー ゴードン・レイ

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