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シネマ1987online

運命の女

「運命の女」パンフレット

ダイアン・レインとリチャード・ギアが「コットン・クラブ」以来18年ぶりに共演したサスペンス。クロード・シャブロル「La Femme Infidele」(1969年、日本未公開)を元に「危険な情事」のエイドリアン・ラインが監督した。会社社長の夫エドワード(リチャード・ギア)に愛されて何不自由ない生活を送っているコニー(ダイアン・レイン)が強風のニューヨークで若いポール(オリヴィエ・マルティネス)に出会い、情事を重ねるようになる。それはやがて夫に知られ…、という展開。元がフランス映画だけに大人の映画になっており、ラストの処理には味わい深いものがある。「危険な情事」のように安易なホラーになったりはしない。特に後半、危機に陥った夫婦が絆を取り戻していく描写などギアとレインの演技も含めて感心した。しかし、細かいところで微妙に違うなと思わせる部分が残る。前半は妻の話なのに後半は夫中心の話で、物語の視点が動くのも気になった。どちらかに(特に夫の視点の方に)統一した方がすっきりしたのではないか。

アルヴィン・サージェントとウィリアム・ブロイルズ・Jrの脚本には詰めの甘さが残るのである。一番の疑問はなぜコニーはポールに惹かれたのか、という部分である。もの凄い強風(ホントに何かの冗談じゃないかと思えるぐらいの強風)のソーホーを歩いていたコニーは本を抱えて歩いていたポールとぶつかり、転んで足にけがをする。親切なポールは部屋で手当てをするよう勧める。その時は何のこともなく終わり、続いて2度目にお礼をしにアパートに行った時も何もなく終わる。しかし、コニーは三度、ポールのアパートを訪ね、そこで2人は一線を越えてしまうのである。このコニーの3度目の訪問の気持ちが良く分からない。

夫に不満があるわけではない。エドワードがかなり高齢でコニーが性生活に不満をもっていたとか、そんなこともない。ポールがコニーに対して特別に積極的だったわけでもない。本で埋まったポールの部屋を見せ、そのユニークさを映画は描こうとしているのだが、コニーとの出会いが運命的なものには感じられないのである。例えば、コニーの役柄が軽薄な女であったなら、こういう展開でも納得できたのかもしれない。でも演じるのがダイアン・レインでは軽薄になりようがないのである。あるいはエドワードの役がリチャード・ギアではなく、もっと高齢の俳優であったなら、コニーはポールの若さに惹かれたのだという説明もできる(ちなみに元の映画ではこの役はミシェル・ブーケである。やっぱり、という感じがする)。しかし、ギアはいたって若く見えるのである。ならば、なぜコニーはポールに惹かれたのか、そこのところを詳しく描く必要があったように思う。エドワードがポールのアパートで感情を爆発させる部分にも少し説得力が足りない。

恋愛は理屈ではないが、映画は理屈なのだ。理屈ではない部分に説得力を持たせる必要があるだろう。キャストを変えれば、説得力はあったのかもしれないけれど、ミスキャストというにはギアもレインも十分に好演している。だからこれは微妙な齟齬、構成のミスと言うほかない。レインはちょっと目尻にしわが目立ってきたとはいえ、前半のセクシーさも含めて非常に良い。リチャード・ギアも経験を感じさせる演技で、中盤、妻の情事を知って苦悩をにじませながらポールのアパートに行く場面の演技には感心させられた。

【データ】2002年 アメリカ 2時間4分 配給:20世紀フォックス
監督:エイドリアン・ライン 製作:エイドリアン・ライン G・マック・ブラウン エグゼクティブ・プロデューサー:ピエール・リチャード・ミラー ローレンス・スティーブン・メイヤーズ アーノン・ミルチャン 脚本:アルヴィン・サージェント ウィリアム・ブロイルズ・Jr 撮影:ピーター・ビジウ プロダクション・デザイン:ブライアン・モリス 衣装:エレン・ミロジニック 音楽:ジャン・A・P・カズマレック
出演:リチャード・ギア ダイアン・レイン オリヴィエ・マルティネス エリック・ペア・サリヴァン チャド・ロウ ドミニク・チアニーズ ケイト・バートン マーガレット・コリン

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