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シネマ1987online

アンナと王様

「アンナと王様」

ジョディ・フォスターの演技が映画を救っている。表情、リアクションが繊細で的確で、感心するほどリアルなのである。タイ王室の家庭教師という役にふさわしい知性(なんせエール大学主席卒業ですから)と演技に対する計算の正確さは驚きに値する。「アンナと王様」はジョディ・フォスターの最高作でもなんでもないが、実力を思い知らされる映画ではある。共演のバイ・リンはキネマ旬報2月上旬号でこう語っている。「ジョディを見ていると、彼女を通して真実が見えてくる瞬間があるのよ。…(中略)…俳優なら誰でも、演じるときには真実に近づこうとするし、正しい感情をとらえようとする。彼女にはそれができるのよ。なのに才能にあぐらをかくことなく、とても努力しているわ」。こういう姿勢をプロというのだろう。これに比べると、“アジア映画の帝王”チョウ・ユンファは分が悪かった。懐の広い演技を見せてくれてはいるが、ただニコニコ笑っているだけではフォスターにかなうわけがない。

実在の英国人家庭教師アンナ・レオノーウェンズの原作に基づく「王様と私」以来2度目の映画化である。今回はミュージカルではなく、モンクット王(チョウ・ユンファ)とアンナの秘めた愛に当時のタイを取り巻く情勢を加えてある。タイ政府の撮影許可が得られなかったため、映画はマレーシアで撮影することになり、「クレオパトラ」以来といわれる大がかりな宮殿のセットを建築。製作費は7000万ドルに膨れあがったという。残念なのはセットの壮大さがあまり生かされていない点で、とても7000万ドルもかけた映画には見えない。

1862年のタイが舞台。実際のモンクット王は1904年生まれだから、この時58歳。28歳の未亡人アンナに恋愛感情が生まれるかどうかは疑わしい。そこを信じさせるのが映画の力で、モンクット王は実際よりも若く、23人の妻と44人の側室と58人の子どもがいる(近く10人生まれる)という設定である。アンナは男尊女卑が徹底し、王が絶対的な力を持つタイの現状に最初は戸惑うが、徐々にモンクット王の魅力を理解するようになる。王の方も男と対等の態度を取るアンナに惹かれていく。アンナが協力して開く夜会のシーンが最初のクライマックスで、ここでモンクット王はアンナにダンスを申し込む。美しいナイトドレスのアンナと王が踊るシーンはとてもロマンティックだ。身分と文化の差があるから所詮結ばれない恋なのだが、お互いの秘めた感情は通じ合う。海岸でアンナと王がキスしそうになって結局しないシーンをはじめ、この2人の関係は大人で、ハードボイルドである。

大作を意識したためだろうけれど、タイとビルマのごたごたなどはなくても良かったような気がする。ラスト近くのアクション・シーンは観客サービスが見え見えである。もう一つ、王の側室として恋人との中を裂かれたタプティム(バイ・リン)のエピソードも、もっと軽く扱った方が良かっただろう。この2つをできれば点景に収めて、アンナと王の関係にもっと焦点を絞り込み、上映時間をあと20分ほど刈り込めば、映画の完成度は増したと思う。

【データ】1999年 アメリカ 2時間27分 20世紀フォックス配給
監督:アンディ・テナント 脚本:スティーブ・ミアーソン ピーター・クライクス 原作:アンナ・レオノーウェンズ 製作総指揮:テレンス・チャン 撮影:カレブ・デシャネル プロダクション・デザイナー:ルチアーナ・アリジ 衣装デザイナー:ジェニー・ビーバン 音楽:ジョージ・フェントン
出演:ジョディ・フォスター チョウ・ユンファ バイ・リン トム・フェルトン シード・アルウィ ランダル・ダク・キム リム・ケイ・シュー メリッサ・キャンベル キース・チン マノ・マニアム

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