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海の上のピアニスト

「海の上のピアニスト」

客船の中で生まれ、一生船を下りなかった天才ピアニストの話。あり得ない設定をどう見せるかがポイントになるが、ジュゼッペ・トルナトーレ、途中までは大変うまい。主役を演じるティム・ロスの素晴らしい好演もあるけれど、トルナトーレの演出は大嘘を信じ込ませる力業と繊細さを併せ持っている。しかし、ラストに至ってそこまでのウエルメイドな作りがガタガタと崩れていく。このラストでは到底、納得できない。原作がどうなっているか知らないが、主人公がなぜあの選択をしたのか、観客にあまり伝わらないのである。確かに言葉では説明があるが、説得力に欠ける。船を降りようとした主人公が途中で心変わりする場面からラストまではもっと丁寧な演出が必要だった。ファンタスティックな映画にはファンタスティックなラストが不可欠と思う。トルナトーレ、後半を急ぎすぎたようだ。

1900年、ヨーロッパとアメリカを往復する豪華客船ヴァージニアン号の中で黒人機関士ダニー(ビル・ナン)がピアノの上に置き去りにされた赤ん坊を見つける。ダニーは1900年にちなんでその子をナインティーン・ハンドレッドと名付け、育てることを決意する。移民局に見つかれば、子どもは孤児院に入れられてしまう。ダニーは船底に隠すようにナインティーンを育てる。8歳になったナインティーンはピアノに隠れた才能を発揮。船のピアニストとして成長していく。ナインティーンは楽譜を読まず、人の表情を見て即興でメロディーを奏でる希有なピアニストになっていくのである。映画はナインティーンと友情を深めたトランペット奏者マックス(プルート・テイラー・ヴィンス)の回想で、現在(1946年)と過去を交互に描く。現在、ヴァージニアン号は廃船寸前。爆破の時間が迫っている。マックスは船にまだナインティーンがいると信じて船内を探し回るのだ。

ナインティーンの人生で大きなドラマは2つあった。一つはジャズの創始者といわれるピアニスト・ジェリー(クラレンス・ウィリアムズ三世)とのピアノ対決。ここは全編を通じての最大の見せ場で、ピアノの魅力、迫力を堪能させられる。もう一つは美しい少女(メラニー・ティエリー)との出会い。ピアノ演奏の録音中、窓の外の少女を見たナインティーンは最高に美しいメロディーを奏でる。そして少女に恋をしてしまうのだ。少女はアメリカで船を下りる。数ヶ月後、ナインティーンも生まれて初めて船を下りることを決意するが…。

手法もややセンチメンタル過多な部分も「ニュー・シネマ・パラダイス」によく似ている。原作は一人芝居らしい。エンニオ・モリコーネの美しい音楽に助けられている部分があるにせよ、それをここまで豊かな映画にしたトルナトーレの力は僕も認める。それだけに決着の付け方を誤った脚本の甘さが惜しいのだ。

ティム・ロスの表情を押し殺した演技はバスター・キートンを思わせ、貧しい移民が乗る船の様子はチャップリンの映画を思わせる。吹き替えなしにピアノ演奏場面を見せるティム・ロスはエキセントリックな役柄に現実感を持たせる好演だ。

【データ】1998年 アメリカ・イタリア 2時間5分 ファイン・ライン・フィーチャーズ提供 メデューサ・フィルムプロダクション作品 配給:アスミック・エンタテインメント/日本ビクター/テレビ東京
監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ 製作総指揮:ローラ・ファットーリ 原作:アレッサンドロ・バリッコ「海の上のピアニスト」 撮影:ラコシュ・コルタイ 音楽:エンニオ・モリコーネ プロダクション・デザイン:フランチェスコ・フリジェリ 衣装:マウリツィオ・ミレノッティ
出演:ティム・ロス プルート・テイラー・ヴィンス メラニー・ティエリー クラレンス・ウィリアムズ三世 ビル・ナン ピーター・ヴォーン ナイオール・オブライアン ガブリエレ・ラヴィア アルベルト・ヴァスケス イートン・ゲイジ コリー・バック

 

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