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インビジブル

「インビジブル」

ポール・バーホーベン監督の透明人間もの。皮膚が裂け、筋肉や骨があらわになりながら人体が徐々に消えていくSFXは見応えがある。ここで激痛を伴うというのが描写とぴったりな感じである。SFXに関しては非常にレベルが高く、十分楽しませてもらった。もともと邪悪で傲慢だった天才科学者が透明になったことでさらに邪悪になり、仲間の科学者を殺戮するというストーリーだから、一種のマッド・サイエンティストものなのだが、SFマインドには乏しく、ホラーとしての仕上がり。バーホーベンらしいエネルギッシュでセクシーな場面もあるけれど、脚本に工夫がなく、後半の展開はよくあるスラッシャー映画である。SFに理解のある脚本家を起用し、クライマックスの展開を一ひねりすると、良かったかもしれない。ケヴィン・ベーコン、エリザベス・シューはともに好演している。

天才的な科学者セバスチャン・ケイン(ケヴィン・ベーコン)はペンタゴンの地下にある透明人間研究チームのリーダー。動物実験で透明化はすぐにできたが、それを元に戻す方法が見つかっていなかった。ある日、ついにケインは復元の方法を発見。ゴリラの実験でも成功した。ケインは上層部には秘密にしたまま、自分を人体実験にして透明人間になる。3日間で元に戻る予定だったが、復元の血清を注射しても元に戻れない。人間ではうまくいかなかったのだ。透明となったままのケインは徐々にその力に酔い、横暴な振る舞いを始める。ケインの元恋人で科学者のリンダ(エリザベス・シュー)と同僚のマシュー(ジョシュ・ブローリン)は上司のクレイマー博士(ウィリアム・ディベイン)に報告するが、ケインは博士を殺し、秘密を守ろうとする。そして仲間の科学者を地下の研究室に閉じこめ、一人一人惨殺していく。

H・G・ウエルズの「透明人間」は科学者の悲劇的な側面も含んでいたように思う。この映画では単なる化け物としての扱いである。透明になったケインが隣のビルに住む憧れの女の部屋に侵入したり、女子トイレに入ったりする描写はいかにもバーホーベンらしい下品さ。クライマックスの惨殺シーンも火と水と血糊べったりの描写が展開される。エンタテインメントだから別にこれでもいいのだが、バーホーベンのオランダ時代の作品(「危険な愛」や「4番目の男」「女王陛下の戦士」など)に比べると、いかにも軽い。見終わって印象に残るのはSFXだけである。ハリウッドに移って2作目の「ロボコップ」が成功を収めたため、バーホーベンが撮る映画はSFが多くなった。しかし、本質は別のところにあるだろう。バーホーベンの演出が僕は好きだし、その力も大いに認めている。もっと自分に合った題材を撮って欲しいものである。

【データ】2000年 アメリカ 1時間52分 コロンビア映画提供 ソニー・ピクチャーズエンタテインメント配給
監督:ポール・バーホーベン 製作総指揮:マリオン・ローゼンバーグ 製作:ダグラス・ウィック アラン・マーシャル 脚本:アンドリュー・W・マーロウ 撮影:ジョスト・バカーノ 音楽:ジェリー・ゴールドスミス 衣装:エレン・ミロジェニック プロダクション・デザイン:アラン・キャメロン 特殊効果:ソニー・ピクチャーズ・イメージワークス ティペット・スタジオ アマルガメイテッド・ダイナミクス CG&ビデオ・ディスプレイ:バンド・フロム・ザ・ランチ・エンタテインメント 
出演:エリザベス・シュー ケヴィン・ベーコン ジョシュ・ブローリン キム・ディケンズ グレッグ・グランバーグ ジョーイ・スロトニック メアリー・ランドル ウィリアム・ディベイン ロナ・トミラ

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