It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

グラン・トリノ

まるで西部劇のようなストーリー。ベトナム戦争の影響でラオスからアメリカに逃れてきたモン族をアメリカ先住民に変えれば、これは舞台を現代に置き換えた西部劇と言って良い。しかし重要なのはショッキングなラストにあり、ここを見てああそうか、と納得した。これはクリント・イーストウッド版の「ラスト・シューティスト」なのだろう。主演映画はこれが最後と言われるのも分かる気がする。5月で79歳になるイーストウッドはこれまで演じてきたイーストウッド的なキャラクターに自ら終止符を打ったのだ。エンドクレジットを見ながら、そんな思いに駆られて鳥肌が立つような感動を覚えた。

といってもラストを除けば、映画はユーモアにあふれており、悲壮感はない。作品としても小品である。主人公のウォルト・コワルスキー(イーストウッド)はフォードの工場に50年間勤め、72年型の車グラン・トリノを大切にしている男。妻が死に、一人暮らしをすることになったが、頑固で偏屈な考え方は2人の息子や孫たちからは疎まれている。妻の葬儀で礼儀を知らない孫たちの振る舞いに苦虫を踏みつぶしたような顔をするのが、いかにもイーストウッドらしいキャラクターだ。自宅の周辺にはアジア系の住民が多いが、コワルスキーは「米食い虫め」と差別的な言動を隠そうとしない。ある夜、隣に住む少年タオ(ビー・バン)がグラン・トリノを盗もうとガレージに入った。タオは従兄弟がいる不良グループにそそのかされたのだ。そこからコワルスキーとタオの家族らとの交流が始まる。タオとその姉スー(アニー・ハー)は不良グループから脅かされていた。

コワルスキーは朝鮮戦争に従軍した経験がある。この設定で真っ先に思い浮かぶのは「ハートブレイク・リッジ 勝利の戦争」の軍曹トム・ハイウェイ。イーストウッドはパンフレットのインタビューで否定しているが、「ダーティハリー」や「ダーティファイター」などのキャラクターも入っていると思う。コワルスキーの誕生日に息子夫婦がプレゼントするのがマジックハンドと文字の大きな電話。おまけに息子夫婦は老人施設に入るように勧め、コワルスキーの怒りを買う、というエピソードがおかしい。もはや息子たちとは理解し合えず、疎外感を持つコワルスキーは隣家の家族たち、特にタオに愛情を注ぐようになる。こうした後輩を指導する設定は「ダーティハリー」ではおなじみのものだった。「ラスト・シューティスト」と書いたけれど、同じくジョン・ウェインの「11人のカウボーイ」も彷彿させる。

イーストウッド以外はノースターと言って良い映画だが、充実している。脚本は新人のニック・シェンクで、「ミリオンダラー・ベイビー」を最後にしようと考えていたイーストウッドに再び演技させるだけの内容を持っている。イーストウッドファンならこの内容に深い感慨を覚えるだろうが、そうでなくても広く支持される映画だと思う。

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