海角七号
「海角七号」(英語タイトルはCape No.7)は台湾で昨年8月に公開され、「タイタニック」に次ぐ歴代興収2位のヒットとなった映画。出張で台湾に行った家内がDVDを買ってきた。中国語なんて全然分からないのにDVD買ってどうする、と言ったら、日本語が3割ぐらい入ってるとのこと。日本人が出てくるのである。とりあえず英語字幕を出しながら見た。
「太陽がすっかり海に沈んだ。これで本当に台湾島が見えなくなってしまった。君はまだ、あそこに立っているのかい?」。1945年12月25日、台湾から日本へ向かう日本人教師の手紙で映画は始まる。タイトルの後、時代は飛んで現代、海沿いの町恒春。主人公のアガ(范逸臣=ファン・イーチェン)は台北で歌手を夢見て挫折し、故郷に帰ってきた。義父である議長の世話で郵便配達の仕事をするようになったが、仕事は投げやりである。アガは日本から出され、宛先不明だった手紙の住所を探し当てようとするが、その住所「海角七号」は日本統治時代の住所で分からなかった。
この町では日本人歌手の中孝介(本人)のコンサートを海岸で開くことになった。議長は前座に地元のバンドをと提案、オーディションをすることになる。バンドのコーディネーターに選ばれたのが中国語が話せるモデルの友子(田中千絵)。オーディションに集まったのは小学生や警察官など6人で、アガも加わって練習が始まるが、メンバーの意思はバラバラ。練習も思うようにいかない。怒った友子はいったんは「もう辞める」と言い出すが、反発し合っていたアガと次第に親しくなっていく。
映画はバンドに参加したメンバーを描きながら、時折、60年以上前の手紙のナレーションを流す。教師は敗戦で恋人の台湾人小島友子(日本語名)を残して日本へ帰ることになったのだった。手紙は教師の遺族が押し入れの中から見つけて、出したものだった。
英語字幕を見慣れていないので最初の1時間は意味がつかみにくかった。後半、バンドが軌道に乗り始めて面白くなった。60年以上前の手紙のエピソードに気を取られるけれど、映画の本筋は凸凹バンドがコンサートを成功させるまでの方にあり、「フラガール」や「ブラス!」みたいな内容と言える。「マーラーサン」という新製品の酒を必死に売り込もうとする青年やバンドに参加することになる80歳の郵便配達などバンドにかかわる人間たちを笑わせて泣かせる演出で描いている。
終戦直後の教師と友子の関係はもちろん、現代のアガと友子に重なっており、これが映画に奥行きを与えている。しかし、このエピソードがなくても映画は成立するだろう。凸凹バンドの奮闘が面白いのである。流れる音楽の数々もいい。
監督は魏徳聖(ウェイ・ダーション)。映画は昨年の台北映画祭でグランプリ、アジア海洋映画祭イン幕張でも最優秀作品に選ばれた。侯孝賢監督が絶賛したというこの映画、日本で一般公開予定があるのかどうか分からないが、日本語字幕で見直してみたいものだ(その後、一般公開された)。