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シネマ1987online

交渉人

THE NEGOTIATOR

上映時間が少し長く、無駄な部分も目に付くけれど、F・ゲイリー・グレイ監督なかなか健闘している。基本的には地味な題材を、派手なアクションと主演男優2人、特にケヴィン・スペイシーの好演によって、まず飽きさせない映画に仕上げた。「ダイ・ハード」の裏返しのような制約の多い設定にもう少し工夫あれば、胸を張って傑作といえる作品になっていたと思う。その意味では惜しい映画だ。

シカゴ警察の東地区交渉人ダニー・ローマン(サミュエル・L・ジャクソン)の相棒ネイサンが何者かに殺される。ネイサンは警察の年金基金200万ドルが盗まれたことをローマンにうち明けたばかりだった。ポケベルで呼び出され、事件の現場に居合わせたローマンに容疑がかかる。さらに内務捜査局による家宅捜索でローマンの家から多額の海外口座が見つかり、横領の容疑までもかけられてしまう。ローマンは内務捜査局のニーバウム(J・T・ウォルシュ)が事件にかかわっているとにらみ、ニーバウムらを人質にとって連邦政府ビルに立てこもる。真犯人は署の内部にいるらしい。このためローマンは交渉役に西地区の交渉人クリス・セイビアン(ケヴィン・スペイシー)を指名する。セイビアンは犠牲者を一人も出さないことを条件に現場の指揮を取り、必死の駆け引きを続けるが、警察は強行突破を図る。

制約が多いというのは主人公が立てこもり犯となる設定。まさか主人公に人質や強行突破してくる警官を殺させるわけにもいかないから、インパクトが弱くなるのだ。これは例えば、「ターミネーター2」でアーノルド・シュワルツェネッガーが人を傷つけないよう命令されて、その後の展開に緊張感を欠いたのと同じ。ローマンが人質の警官を殺す場面があるが、ホントは生きているんだろうというのは容易に想像できる。かといって最初からセイビアンを主人公にしておくと、普通の映画になってしまう。苦しいところだ。途中で主人公が完全に入れ替わるという展開にすれば良かったのかもしれない。主人公と思っていた人物が徹底的な悪役に変わるという劇的な展開の方が面白い。ただし、この映画では他に真犯人がいるとの設定なので、無理だろう。画面が今ひとつ緊迫しないのはこうした制約が原因。脚本はセントルイスで実際に起きた事件をヒントにしているという。

ケヴィン・スペイシーは顔に凄みがあり、いかにもできる感じがする。沈着冷静なベテラン交渉人役にはピッタリ。サミュエル・L・ジャクソンは癖のある役の方が似合う。今回はストレートな役なので、少し弱かった。ゲイリー監督の演出はアクション場面のキレは悪くない。ローマンやセイビアンの私生活とか、無駄な部分を省いて全体で2時間弱の映画にまとめられれば、もっと良かったと思う。

パンフレットによると、シカゴ警察にはなんと75人の交渉人がいるそうだ。人質事件だけでなく、ろう城事件、テロリストにも対応するという。タイトルは原題を邦訳したまったくそのまんまだけど、「ネゴシエイター」とカタカナにしてしまうと、フレデリック・フォーサイスの小説と同じになってしまうから、仕方がなかったのだろう。

【データ】1998年アメリカ映画 2時間19分
監督:F・ゲイリー・グレイ 脚本:ジェイムズ・デ・モナコ ケヴィン・フォックス 音楽:グレイム・レベル 
出演:サミュエル・L・ジャクソン ケヴィン・スペイシー J・T・ウォルシュ デイビッド・モース ロン・リフキン

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