グラディエーター
スペクタクルな部分に関しては、満足のいく出来である。映像派のリドリー・スコットが監督だから、冒頭のローマ帝国軍とゲルマンとの戦闘シーンは凄い迫力。グラディエーター(剣闘士)となった主人公がコロシアムで見せる戦いにも重厚な迫力があるし、帝国の豪華な建物を描くCGも良くできている。しかし、ストーリー展開に今ひとつ切れ味がない。主に脚本の問題なのだが、基本的には復讐劇なのに主人公がそれに全精力を傾けている感じがしないのである。製作者の狙いはグラディエーターとローマ帝国を描くことにあり、復讐劇はそれを見せるための手段だったのだろう。話がやや雑で、訴求力に欠ける。奴隷の境遇で仕方ないとはいえ、コロシアムで人を殺し続ける主人公にも共感を持ちにくい。復讐の相手ローマ皇帝は絶対的な悪だが、主人公は絶対的な善とは言えない。だから、復讐を果たすことができてもあまりカタルシスがない。素晴らしい映像なのに「ベン・ハー」などかつての史劇のレベルに達していないのはそのためだ。
西暦180年、ローマ帝国の将軍マキシマス(ラッセル・クロウ)は軍を掌握し、皇帝マルクス・エウリアウス(リチャード・ハリス)から全幅の信頼を得ていた。皇帝は邪悪な息子コモドゥス(ホアキン・フェニックス)ではなく、マキシマスに地位を譲ることを告げる。これを知ったコモドゥスは激怒。父親を殺し、マキシマスも処刑しようとする。傷を負いながらも間一髪逃れたマキシマスが故郷のスペインに帰ると、妻子は無惨に殺されていた。ショックと傷で倒れたマキシマスは奴隷の一行に助けられ、奴隷商人プロキシモ(オリバー・リード)に買われる。マキシマスはその剣の腕からグラディエーター(剣闘士)として最強の存在になっていく。プロキシモとともに地方を巡業していたが、やがてローマ帝国は民衆の支持を得るため、コロシアムで剣闘を再開。プロキシモとマキシマスもローマ帝国に帰る。コロシアムにはコモドゥスと姉のルッシラ(コニー・ニールセン)も来ていた。マキシマスは仮面を付けて戦い、相手を次々に倒す。民衆はその戦いぶりに熱狂。コモドゥスに仮面を取るように命じられて正体を明かしたマキシマスは改めて復讐を誓う。
復讐はここから始まるのだが、映画の上映時間から言えば、この時点で終わってもいいくらいだ。妻子が殺されるまでも時間をかけすぎで、リドリー・スコット、どうも今回はテンポを間違っているようだ。ラスト、マキシマスとコモドゥスはコロシアムで1対1の戦いをする。復讐劇の定石なのだが、周囲にいる警備隊が助けないのはリアリティに欠ける。パンフレットによると、コモドゥスは実際にも相当の愚帝で臣下に殺害されたそうだ。映画ではその描き方が不足しており、警備隊の唐突な裏切りにしか見えない。もともと2時間35分を耐えるプロットではないのだろう。それでも何となく納得してしまえるのは映像に力があるからにほかならない。この映像で、もっと面白いストーリーを見たかった。
体重を17キロ落として撮影に臨んだラッセル・クロウは精悍な動きを見せる。コニー・ニールセンは「ミッション・トゥ・マーズ」とは違って妖艶な役柄で良かった。オリバー・リードはこれが遺作となり、最後に“to our Oliver Reed”と献辞が出る。
【データ】2000年 アメリカ 2時間35分 ユニバーサル ドリームワークス提供 配給:UIP
監督:リドリー・スコット 脚本:デヴィッド・フランゾーニ ジョン・ローガン ウィリアム・ニコルソン ブランコ・ラスティグ 原案:デヴィッド・フランゾーニ 製作:ダグラス・ウィック デヴィッド・フランゾーニ ブランコ・ラスティグ 製作総指揮:ウォルター・F・パークス ローリー・マクドナルド 撮影:ジョン・マシソン プロダクション・デザイナー:アーサー・マックス 衣装:ジャンティ・イェーツ 視覚効果スーパーバイザー:ジョン・ネルソン 音楽:ハンス・ジマー リサ・ジェラード
出演:ラッセル・クロウ ホアキン・フェニックス コニー・ニールセン オリバー・リード リチャード・ハリス デレク・ジャコビ ジャイモン・ハンスゥ