恋におちたシェイクスピア
シェークスピアの「ロミオとジュリエット」はどのように生まれたのか。それを面白おかしく、ロマンティックに描いてアカデミー7部門(作品、主演女優、助演女優、オリジナル脚本、美術、衣装デザイン、作曲)を受賞した。パロディとかパスティーシュとかいうと少しニュアンスが違ってくるが、そうした側面も持った楽しい映画だ。しかも楽しさだけに終わらせず、芝居がいかに人を引きつけるかなんて部分もしっかり描いてある。シャイロックを思わせる金貸しのフェニマン(トム・ウィルキンソン)が徐々に芝居にのめり込んでいく過程などは微笑ましい。
16世紀のロンドンが舞台。2つの劇場のうち、ローズ座は疾病の流行で閉鎖され、所有者のヘンズロー(ジェフリー・ラッシュ)は金貸しのフェニマンから借金の返済を迫られている。頼みの綱は、新進気鋭の劇作家ウィル・シェークスピア(ジョセフ・ファインズ=「シンドラーのリスト」で凶悪な軍人を演じたレイフ・ファインズの末弟)が執筆中のコメディ「ロミオと海賊の娘エセル」。しかし、執筆は遅々として進まない。シェークスピアはスランプなのである。
ある日、シェークスピアは資産家の娘ヴァイオラ(グウィネス・パルトロウ)に出会って一目惚れする。ヴァイオラは芝居好きで、実はシェークスピアの新作のオーディション(!)で男装して現れ(この時代、女性は舞台に立つことができないのである)、その才能をシェークスピアに買われたのだが、シェークスピアは2人が同一人物とは気づいていない。
正体が分かったところで、2人は相思相愛となるが、資産家の娘と貧乏劇作家では結婚などできるわけがない。ヴァイオラの親は結婚相手に貴族のウェセックス卿(コリン・ファース)を決めてしまった。2人の仲を知ったウェセックス卿は怒り、シェークスピアの命を狙う。裏から手を回して劇場も再び閉鎖される。居酒屋でかき集めた素人集団が稽古によって徐々に役者らしくなってきたところだったのに、公演への道は険しくなった。シェークスピアの新作はそうした現実世界を取り入れ、コメディから徐々に悲劇へと変わっていく。タイトルも「ロミオとジュリエット」へ…。
物語はフィクションだけれど、シェークスピアは実在の人物だから、基本的な部分で事実を改変するわけにはいかない。つまりヴァイオラとは結ばれない運命なのである。映画の脚本家たち(マーク・ノーマンとトム・ストッパード)はそこを乗り越えるためにラストに工夫を凝らしている。アンハッピーエンドをハッピーエンドに切り替える夢のような手法で、ま、こういう処理の仕方は悪くない。ラストに広がりが出たと思う。
スティーブン・ウォーベックの流麗な音楽に彩られて映画が進むうちに、それほどの美人とは思えないグウィネス・パルトロウが光り輝いて見えてくる。ファインズも颯爽としていてよい。ジェフリー・ラッシュはあの「シャイン」の主人公と同一人物とは思えないほどのメーク。総じて役者たちの演技が素晴らしく、これは役者の演技を楽しむ映画でもあった。
パンフレットによると、監督のジョン・マッデンは元々、舞台の演出家なのだそうだ。映画全体に、舞台への愛情が感じられるのも当然なのである。
【データ】1998年 イギリス 2時間3分 UIP配給
監督:ジョン・マッデン 脚本:マーク・ノーマン トム・ストッパード 撮影:リチャード・グレトリックス 音楽:スティーブン・ウォーベック
出演:ジョセフ・ファインズ グウィネス・パルトロウ ジュディ・デンチ ジェフリー・ラッシュ