ギャラクシー・クエスト
2000年度のヒューゴー賞映像部門で「シックス・センス」というそうそうたる作品を抑えて最優秀作品賞を受賞した。作品の出来では他に譲るかもしれないが、SFファンの心をしっかりとつかんだ結果だろう。「スター・トレック」のパロディから出発しながらSFとして本気で映画化していること、SFファンダムを揶揄しているようで実はファンダムに理解を示していること、そしてスタン・ウィンストンとILM担当による本格的なSFXが融合し、おかしくて感動的で洒落た作品になった。ファンダムにはオタク的な人が多いと思うが、この映画の製作者たちも多分にオタク的要素を持っているらしい。しかし、ラストの夢が具現化するシーンはそうしたパロディやオタク的などといった些末な要素を蹴散らして、ハッピーな感覚にあふれる。失意の登場人物たちが自信を取り戻す過程も織り込み、気持ちの良い作品に仕上がっている。
SFファンダムのコンベンション(大会)でテレビシリーズ「ギャラクシー・クエスト」(1979〜1982年)のイベントが催される。当時の出演者たちは未だにギャラクシー・クエストのキャラクターとして人気がある。というか、本人たちもこのキャラクターとしてイベントに参加するしか食っていく道がないらしい。タガート艦長を演じたジェイソン・ネズミス(ティム・アレン)はそれでもこの役に愛着を持っていたが、異星人クルー、ドクター・ラザラス役のアレックス・デーン(アラン・リックマン)は嫌がっており、「もう2度とあのセリフは言わない」などとぼやいている。紅一点のタウニーを演じたグエン・デマルコ(シガニー・ウィーバー)ら他の出演者もアレックスと同じような感覚でいる。このあたりが、もう「スター・トレック」そのものだが、ここから映画はSF的展開を見せる。コンベンション会場でネズミスの元に奇妙なキャラクターの一団が来る。「故郷のサーミアン星が邪悪な異性人サリスに侵略され、困っている。助けて欲しい」というのだ。ネズミスはファンのイベントと思うが、連れて行かれたのは本物の宇宙基地だった。サーミアンには嘘の概念がなく、テレビシーズを歴史ドキュメンタリーと理解していたのである。いったん地球に帰ったネズミスは「ギャラクシー・クエスト」の仲間に話すが、信じてもらえない。しかし、今度はメンバー全員が宇宙基地に転送される。サリスの残忍な攻撃に恐れをなした一行は帰ろうとするが、戦場のまっただ中にいるため、帰るに帰れない。テレビシリーズと本物そっくりに作られた実際の宇宙船プロテクター号に乗り組み、仕方なくサリスとの戦いに挑むことになる。
サーミアンは宇宙船をテレビとまったく同じに作り上げていたので、何も知らない俳優たちにも操縦や武器使用ができてしまう、というのはご都合主義だが、こうでなければならない展開。サーミアンは科学に関しては地球よりもずっと進んでいるのである。かくしてギャラクエの面々は虚構のヒーローから本物のヒーローになってしまう。それを助けるのがギャラクエの熱狂的ファンたち。カルトな知識を持つ彼らは宇宙船内の道案内を無線で行い、ラスト、地球に帰還した一行を手助けして無事に宇宙船を着陸させる。ファンとキャラクターとの幸せなつながりがここにはあり、製作者たちはちょっぴり皮肉を交えながらそれを描いている。視点が大人なのだ。
出発はパロディであったにしても、1本の映画としてしっかり作られており、SFXは「スター・トレック」を超えた出来。ティム・アレン、アラン・リックマン、シガニー・ウィーバーが良く、特にブロンドのカツラを着けたウィーバーはセクシーさをアピールして年齢を感じさせない。どことなくジェーン・フォンダに似ていてうれしくなった。監督のディーン・パリソットは短編映画やテレビシリーズ「ER」などの演出を経て劇場映画「100万回のウィンク」(98年)でデビュー。「ギャラクシー・クエスト」が長編2作目でメジャー映画デビューという。過去に「たどりつけば、アラスカ」(NORTHERN EXPOSURE)などコメディも手がけており、今回も笑いのツボを外さない演出を見せている。
【データ】1999年 アメリカ 1時間41分 ドリームワークス映画 配給:UIP
監督:ディーン・パリソット 製作:マーク・ジョンソン チャールズ・ニュワース 製作総指揮:エリザベス・カンティロン 脚本:デイヴィッド・ハワード ロバート・ゴードン 原案:デヴィッド・ハワード 撮影 :イェジー・ジェリンスキー 美術:リンダ・デシーナ 音楽:デヴィッド・ニューマン 衣装:アルバート・ウォルスキー エイリアン・メイクアップ&クリーチャー製作:スタン・ウィンストン 視覚効果監修:ビル・ジョージ 視覚効果&アニメーション:I.L.M.
出演:ティム・アレン シガニー・ウィーバー アラン・リックマン トニー・シャローブ サム・ロックウェル ダリル・ミッチェル エンリコ・コラントーニ ロビン・サックス パトリック・ブリーン ミシ・パイル ジェド・リース ジャスティン・ロング ジェレミー・ハワード