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シネマ1987online

ベンジャミン・バトン 数奇な人生

監督、主演男優、助演女優などアカデミー賞13部門にノミネートされた。それに見合う傑作かと言えば、疑問を覚える。スコット・フィッツジェラルドの短編を基に「フォレスト・ガンプ 一期一会」「インサイダー」「ミュンヘン」のエリック・ロスが原案と脚本を書いた。原作と同じなのは老人で生まれて若返っていく設定だけと言って良い。「人生は何が起こるか分からない」といった寓意が至る所に込められているのだが、どうもデヴィッド・フィンチャーの演出にはロマンティシズムやセンチメンタリズムなど情緒的なものとファンタジーらしい神秘的な雰囲気が不足している。2時間46分という長い上映時間もマイナスで、こういう映画は2時間以内にまとめてほしいものだ。無用に長いと、演出も凡庸に思えてくる。

若返っていくベンジャミン(ブラッド・ピット)と年老いていくデイジー(ケイト・ブランシェット)の話である。老人と少女として出会った2人は同じ年格好となった数年間を一緒に過ごし、やがて少年と老女の時を過ごすことになる。二人が共有する幸福な時間はとても短い。全体をコンパクトにまとめてそこをもっと強調すべきだったのではないか。2人が結ばれるまでと、別れた後が長いのだ。

映画は病院のベッドに横たわるデイジーの場面で幕を開ける。デイジーはベンジャミンが残した日記を娘に読んでもらい、その生涯を回想していく。冒頭に描かれるのは戦争で息子を亡くした時計職人が逆回りの大きな時計を駅のホームに取り付けるシーン(これこはイラク戦争を反映しているのだと思う)。時間をさかのぼることができれば、息子を取り戻せるのにという願いが込められているのだが、これとベンジャミンとの関係はあいまいだ。神秘性がほしいのはこういうところ。

原作でベンジャミンは身長170センチの老人として生まれるが、いくらなんでもそれではリアリティーを欠くので、映画では今にもお迎えが来そうな老人のようにしわくちゃの赤ちゃんになっている。母親は出産の際に死に、そのショックもあって父親トーマス・バトン(ジェイソン・フレミング)はベンジャミンを捨てる。ベンジャミンは子宝に恵まれなかった黒人のクイニー(タラジ・P・ヘンソン=助演女優賞ノミネート)に拾われ、クイニーが働く老人ホームで育つことになる。

ブラッド・ピットのメイクには驚かざるを得ない。小さな体にピットの顔が乗った、恐らくパフォーマンス・キャプチャとCGを組み合わせたシーンには驚かないのだけれど、若くなるところで、ホントに十代に見えるのが凄い。この特殊効果は大変よく出来ていて、メイクアップ賞か視覚効果賞は確実だろう。ピットは若くなってオートバイに乗るシーンなど生き生きとしている。ケイト・ブランシェットも若いころの姿には特殊効果が使ってあるのだろう。2人ともまず好演している。

雷に7回打たれた男とか、クスリと笑えるエピソードもあるが、この種のあり得ないファンタジーにはもっともっと飄々としたものが欲しくなる。フィンチャーにはそうした洒落た部分はないように思う。題材がフィンチャーの資質に合っていないのだ。IMDBの採点は8.3で、トップ250フィルムの111位。そんなに評価の高い映画とは思えないが、アメリカ人にしか分からない部分もあるのかもしれない。

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