パラノーマル・アクティビティ
撮影期間7日間、製作費1万5000ドル(135万円)の映画が全米興収1億ドル(90億円)以上のヒットとなった。と聞けば、興味がわくが、内容は本当に大した事はなく、おまけにまったく怖くなく、これがなぜ大ヒットしたのか疑問を感じるばかり。上映時間1時間26分(1時間39分版もあるようだ)の映画だが、20分程度にまとめられるような内容だ。そうしておけば、短編映画として傑作になったかもしれない。アイデアが短編なのである。ビデオカメラのPOV(ポイント・オブ・ビュー=主観)映像で撮影された映画としては先行する「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」「クローバーフィールド HAKAISHA」「REC/レック」には遠く及ばない。この映画のヒット自体が幸運に恵まれたパラノーマル・アクティビティ(超常現象)のように思えてくる。監督・脚本・製作・編集のオーレン・ペリはイスラエル出身で、これが初監督作品という。
ケイティ(ケイティ・フェザーストーン)とミカ(ミカ・スロート)が暮らす家に何かがいる気配がする。それをビデオカメラに収めようとするのが物語の発端。2人は寝室にビデオカメラをセットし、寝ている間も撮影を続ける。そのビデオには不気味な物音がしたり、ドアが風もないのに閉じたりという不思議な現象が映っていた。怪異現象は次第にエスカレートしてくる。ケイティは子どもの頃から、こうした現象に脅かされており、家自体が原因ではないようだ。
というのが設定であり、物語のすべてである。ポルターガイスト現象を描いた21日間の物語で、幽霊の専門家が出て来て、「これは悪魔の専門家に任せた方がいい」とさじを投げる場面があったりするが、それ以外はカップルと怪異現象の描写が続くだけに終わる。怪異の正体がまったく出てこなかった「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」には不満を覚えたのだけれど、恐怖の醸成という点ではいい線行っていたと思う。あれは森の中に迷い込む恐怖が含まれていたからだろう。この映画の場合、普通の家(撮影した家はペリ監督の自宅だそうだ)の中で起きる現象のため、何かあったら逃げればいいじゃんと思えてくるのだ。
もちろん、ケイティ自身に原因があるようだから、逃げても無駄なのだが、怪異以外の恐怖の要素が皆無なのは「ブレア…」に比べると弱いと思う。怪異現象によってあのカップルの人間関係がズタズタになるとか、そういう追い詰められた人間を描くような部分が必要だったのではないか。ホームビデオの映像にはリアリティを感じ、効果を上げていると思う。ただし、この手法も独自のものとは言えないのが辛いところだ。
ラストはスピルバーグの助言で撮り直したという。オリジナルはどうなっていたのか気になるが、確かにこういうラストでなければ、観客は納得しなかっただろう。ちなみにこの映画、続編が決定し、公開日も今年10月22日に決まっている。なのにまだ監督が決まっていないという、普通のアメリカ映画では考えられないようなスケジュールである。7日間で撮影が終わった映画の続編なので、大丈夫なのだろう。続編では怪異の正体をたっぷりと描いてほしい。そして続編にも出るのなら、主演のフェザーストーン、10キロほど減量した方がいいと思う。