パール・ハーバー
アメリカでの興行上の理由から加えられたと思える終盤の1時間が退屈すぎる。ここから「パール・ハーバー」というタイトルとは異なる別の映画になるのである。真珠湾攻撃の仇討ちを東京空襲で果たすというこのシーン、まったく不要である。「トラ トラ トラ!」(1970年、リチャード・フライシャー、深作欣二、舛田利雄監督)がアメリカでは惨敗したそうだから、こういう構成になったのだろうが、日本公開に際して都合の悪い部分をカットするぐらいなら、ここをすべてカットして真珠湾攻撃成功の場面で終わらせても良かったのではないか。いやアメリカでの公開版もそうして上映時間を2時間足らずにまとめた方がすっきりしただろう。監督のマイケル・ベイと製作のジェリー・ブラッカイマーは映画の質よりもヒットするかどうかにしか関心がないようで、だからこういう不要な場面を加えて映画の構成を滅茶苦茶にするのである。潔くない。噴飯ものの日本軍の描き方などこの映画のひどい部分はほかにもいろいろとあるが、失敗の要因は結局この点に集約されると思う。しかもこの無能コンビは真珠湾攻撃をタイタニックの悲劇のような“アメリカの悲劇”としてとらえ、そこにラブストーリーを絡めるという極めて安易な手法を採った。アメリカローカルな発想の底の浅い映画なのである。
ハンス・ジマーの音楽で幕を開けた映画は飛行機好きのレイフ(ベン・アフレック)とダニー(ジョシュ・ハートネット)の少年時代をさらりと描く。レイフは数学には才能を発揮するが、文字を読むのは苦手という設定。これが後ほどあまり生かされないのは脚本の欠点だろう。時代変わって1941年。2人は陸軍航空隊に入り、パイロットになっていた。レイフは健康診断で看護婦イヴリン(ケイト・ベッキンセール)と出会い、お互いに愛するようになっていたが、子どもの頃からの夢を実現するため志願してヨーロッパ戦線に出征する。ダニーとイヴリンはハワイ・オアフ島へ転属になる。イギリスのイーグル飛行隊に所属したレイフは戦闘の最中、ドイツ軍機から撃墜され、海に落ちて行方不明になる。戦死の報を受け取ったイヴリンは悲しみに暮れるが、やがてレイフと共通の思い出を持つダニーと愛し合うようになる。しかし、その年の12月6日、戦死したと思われたレイフが帰ってきた。フランスの漁民に助けられたが、連絡が取れずにいたのだった。レイフはダニーとイヴリンの関係を知って激怒する。翌12月7日、日本の戦闘機が突如、米空母や戦艦が集結した真珠湾を攻撃してきた。レイフとダニーはわだかまりを捨て、迎撃へと飛び立つ。
と、ここまで1時間半かかる。ここから30分あまりにわたって描かれる真珠湾攻撃の場面は最新のSFXを使い、確かに見応えがある。地面すれすれを飛ぶ戦闘機、日米のドッグファイト、空爆される戦艦、負傷する人々を次々に描き、迫力たっぷり。だが、長すぎるし、見せ方に工夫が足りない。しかもこのクライマックスの後に映画は先に書いたようなアホな設定に突入する。歯切れが悪いことこの上ない。三角関係の清算をどうするのかと思ったら、ここでもまた都合のいい決着を用意する。レイフとダニーとイヴリンの三角関係自体がありふれたものなのだが、この決着の付け方もまたとことん安易である。
ベン・アフレックはおいといて、繊細な青年を演じるジョシュ・ハートネット(「パラサイト」)と、どこかジェラルディン・チャップリンに似ていて決して美人ではないが、光る魅力を持つケイト・ベッキンセールは悪くない。なのにこのアホな物語ではどうしようもない。ほかにもキューバ・グッティング・Jrの描き方が通り一遍であるとか、ダン・エイクロイドにもっと活躍させろとかの不満がたっぷりある。車椅子のルーズベルト大統領を演じたジョン・ボイトは演技派の名に恥じない重厚な演技だが、これとて結局、このくだらない映画に収斂されていくのであるならば、大してキャリアのプラスにはならないだろう。
【データ】2001年 アメリカ 3時間3分 配給:ブエナ・ビスタ
監督:マイケル・ベイ 製作:ジェリー・ブラッカイマー 製作総指揮:マイク・ステンソン バリー・ウォルドマン ランダル・ウォレス チャド・オーメン ブルース・ヘンドリックス 脚本:ランダル・ウォレス 撮影:ジョン・シュワルツマン 美術:ナイジェル・フェルプス 視覚効果監修:エリック・ブレヴィッグ 特殊効果:ジョン・フレイジャー 衣装:マイケル・カプラン 音楽:ハンス・ジマー
出演:ベン・アフレック ジョシュ・ハートネット ケイト・ベッキンセール アレック・ボールドウィン キューバ・グッティング・Jr ジョン・ヴォイト ダン・エイクロイド トム・サイズモア イーウィン・ブレムナー ジェームズ・キング コーム・フィオレ マコ ケイリー・ヒロユキ・タガワ