ハリー・ポッターとアズカバンの囚人
前半はこれまでの2作と同工異曲で退屈だが、2種類の狼男と時間テーマが絡む後半の展開にちょっと感心した。2作目では目立たなかったハーマイオニー(エマ・ワトソン)が今回、大活躍するのもいい。ただし、これまでの2作より小味な感じがする。スケール感がないのだ。上映時間が2時間22分と最も短いことが影響しているのではなく(子ども向けなのだからもっと短く、1時間30分程度でいい。前半の描写には無駄が多いと思う)、ハリー・ポッター(ダニエル・ラドクリフ)が戦う敵のスケールが小さいのだ。というか、今回、悪役らしい悪役は1人だけではないか。しかも本筋の敵ではない小悪人であるから、何だか物足りない。子ども向けの丁寧なファンタジーではあるが、大人を満足させるほどの出来にはなっていない。第1作が公開されたころは、同じファンタジーということで「ロード・オブ・ザ・リング」と比べられたが、今となっては「ロード…」と比較すべくもない。
アズカバン牢獄から凶悪な囚人シリウス・ブラック(ゲイリー・オールドマン)が脱獄する。ブラックはハリー・ポッターの両親をヴォルデモード卿に引き渡し、死に追いやった張本人で、今度はハリーの行方を追っているらしい。ホグワーツ魔法学校のダンブルドア校長(マイケル・ガンボン)は学校にアズカバンの看守ディメンダーを呼び寄せ、警護に当たらせる。しかし、ブラックは密かに学校に近づいていた。
まるで死に神のようなディメンダーの存在は面白い。これは看守とはいっても善玉ではなく、魂を吸い取る悪の存在にもなりうるらしい。VFXはこのディメンダーのほか、馬と鳥を組み合わせたようなバックビーク、狼男などよくできている。ロン役のルパート・グリントを含めて主役の3人は1作目からすると、随分成長した。この3人には好感が持てるので、原作とは離れてもいいから3人の成長を生かしたシリーズにしてほしいと思う。
監督はクリス・コロンバスからアルフォンソ・キュアロン(「天国の口、終りの楽園。」)に代わった。キュアロンはシリーズのテイストを残しつつ独自のものを出したかったのかもしれないが、独自の味わいを出すまでは至っていない。シリウス・ブラック役のゲイリー・オールドマン、トレローニー先生を演じるエマ・トンプソンとも演技派だが、この映画では特に評価すべきところはなかった。それはおなじみのアラン・リックマンやマギー・スミスにも言え、この映画、俳優が豪華な割にはそれを生かし切れていない。
【データ】2004年 アメリカ 2時間22分 配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:アルフォンソ・キュアロン 製作:デヴィッド・ヘイマン クリス・コロンバス マーク・ラドクリフ 製作総指揮:マイケル・バーナサン カラム・マクドゥーガル ターニャ・セガーチェン 原作:J・K・ローリング 脚本:スティーブ・クローブス 撮影:マイケル・セレシン 美術:スティーブン・ワイズバーグ 音楽:ジョン・ウィリアムズ 特殊効果監修:スティーブ・ハミルトン 視覚効果監修:ティム・バーク
出演:ダニエル・ラドクリフ ルパート・グリント エマ・ワトソン トム・フェルトン ハリー・メリング ジュリー・クリスティー ロビー・コルトレーン パム・フェリス マイケル・ガンボン リチャード・グリフィス ロバート・ハーディー ゲイリー・オールドマン アラン・リックマン フィオナ・ジョー マギー・スミス ティモシー・スポール デヴィッド・シューリス ジュリー・ウォルターズ マーク・ウィリアムズ エマ・トンプソン