プルーフ・オブ・ライフ
南米で起きた誘拐事件をプロの交渉人ラッセル・クロウが解決するアクション。といってもビリングのトップはメグ・ライアンだから、ライアンとクロウのお互いに秘めた愛も同時に描かれることになる。「愛と青春の旅だち」(1982年)のテイラー・ハックフォードは手慣れた演出で、オープニングのチェチェンの誘拐交渉の場面にスピーディーな描写を見せてうまいのだが、どうも物語の展開には今ひとつキレがない。クロウはいったん誘拐交渉をやめて帰国するのに、なぜか再び舞い戻り(この理由がよく説明されない)、最後はランボー並みの捕虜奪還作戦を展開することになる。キャラクターの心理描写が足りず、余計な場面もいくつかあり、ちょっと乱暴な脚本である。今絶好調のクロウといつまでもチャーミングなライアン(1961年生まれだから今年40歳)の魅力は十分に堪能できるものの、これでは困る。考えてみれば、「愛と青春の旅だち」でも最近の「ディアボロス 悪魔の扉」(1997年)でも演出の歯切れ自体は良くなかったから、ハックフォードはこういう演出をするタイプなのだろう。
ダム建設で南米のテカラに来ていた技術者ピーター・ボーマン(デヴィッド・モース)が反政府ゲリラに誘拐される。ピーターの会社はロンドンのK&R(誘拐身代金)企業に事件解決を要請。交渉人テリー・ソーン(ラッセル・クロウ)が派遣される。ピーターの妻アリス(メグ・ライアン)、姉ジャニス(パメラ・リード)とともにゲリラと交渉するが、経営不振のピーターの会社が保険を解約していたことが発覚。テリーはアリスの頼みを振り切り、帰国する。アリスは会社が雇った地元の警備員を交渉人にせざるを得なくなる。警備員とその怪しげな仲間に言われるまま身代金の一部を用意し、金を詰めていたところへテリーが舞い戻り、無償で交渉に当たることになる。ゲリラと粘り強い交渉を続けた結果、事件発生から110日後に条件面で合意に達する。しかしそのころ、ピーターは脱出を試み、足にけがを負った。ゲリラとの交渉も中断。ピーターは同じゲリラに誘拐された人質の救出を計画していたライバル社のディーノ(デヴィッド・カルーソー)らと奪還作戦を展開する。
雑誌「ヴァニティ・フェア」の記事が脚本の基になったという。警察も当てにならない政情不安な南米での誘拐事件の困難さはよく分かるし、場面の絵作りは水準に達しているが、脚本に余計な要素を盛り込みすぎたきらいがある。テリーが息子を訪ねる場面など後にほとんど生かされないし、いったん交渉をやめる場面も不要だった。プロは金で動くのが本筋。個人的な感情で動くと、仕事に支障があるだろう。第一、アリスに最初から恋愛感情を抱いたわけでもあるまい。どうも動機づけに弱い部分が残る。テリーの心境の変化をもっと十分に描く必要があっただろう。物語の根幹にかかわる部分だけに気になった。ゲリラをばたばたと殺して人質を救出するというのも安易な発想ではある。
【データ】2000年 アメリカ 2時間15分 配給:ワーナー・ブラザース
監督・製作:テイラー・ハックフォード 脚本・製作総指揮:トニー・ギルロイ 撮影:スラウォミール・イドゥジアク 美術:ブルーノ・ルービオー 音楽:ダニー・エルフマン 衣装:ルース・マイヤーズ
出演:メグ・ライアン ラッセル・クロウ デヴィッド・モース パメラ・リード デヴィッド・カルーソー