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シネマ1987online

ポワゾン

「ポワゾン」

男女の愛を軸にしたサスペンスを描き続けた作家ウィリアム・アイリッシュ(コーネル・ウールリッチ)の原作「暗闇へのワルツ」の2度目の映画化。ちなみに一度目はフランソワ・トリュフォー「暗くなるまでこの恋を」(1969年、フランソワ・トリュフォー監督)で、ジャン=ポール・ベルモンドとカトリーヌ・ドヌーブが共演した。今回はアントニオ・バンデラスとアンジェリーナ・ジョリーの激しい愛の顛末を描く。R-18指定だが、それほど大した描写はない。

19世紀後半のキューバが舞台。コーヒー会社を経営するルイス・バーガス(アントニオ・バンデラス)は愛など信じない男で、新聞の交際欄を通じて知り合ったアメリカ女性と一度も会わずに結婚を決める。船から下りたジュリア・ラッセル(アンジェリーナ・ジョリー)は写真とは異なる美しい女だった。「外見で判断しないよう試した」と話すジュリアだったが、ルイスも自分が会社社長であることを偽っていた。2人はすぐに結婚、ルイスは情熱的なジュリアに夢中になる。ある日、ジュリアはルイスの預金を全額引き出し、結婚指輪を置いて姿を消す。ジュリアの姉に依頼された探偵ダウンズ(トーマス・ジェーン)はルイスの妻は本物のジュリアを殺し、すり替わっていたのだと話す。絶望と憎悪に駆られたルイスはダウンズとともにジュリアを捜し始める。

ミステリなのでこれ以上は書かないが、映画は中盤でネタをばらし、その後はルイスとジュリアの愛の逃避行を描いていく。ちょっとヒッチコックを意識したのかと思える構成ではある。しかし、例えばプロットが似ているヒッチコック「めまい」に比べると、どうも主演の2人に切実さが足りないように思う。アンジェリーナ・ジョリーは個性的な美人ではあるが、だれもが認めるハッとするような美人とは言えないだろう。だから、2人の初対面の場面がなんだか落ち着かない。ファム・ファタール(宿命の女)を演じるには少し若いような気もする。ミステリアスな雰囲気に欠けるので、偽りの愛が本物の愛に転化する過程の説得力が今ひとつ不十分だ。バンデラスは悪くないけれど、繊細さがなく、愛に翻弄され、破滅への道筋をたどる男の苦悩を十分には見せてくれない。もっとこの男の心情を緻密に描く演出が必要だったように思う。凡庸なのである。

「夜は若く、彼も若かった。しかし、夜は甘いのに彼の気分は苦かった」の有名な書き出しで始まる「幻の女」に代表されるようにアイリッシュのタッチはロマンティシズムあふれる部分にある。そのロマンティシズムを映画はうまく表現していない。監督のマイケル・クリストファーは劇作家、脚本家(「虚栄のかがり火」「イーストウィックの魔女たち」)出身で、これが劇場用映画の監督2作目。原題はOriginal Sin。パンフレットにはどこにもこの表記がなく、知らない人は原題をPoisonと勘違いしてしまうのではないか。フランス映画のようにポワゾンと読ませるのもどうかと思う。

【データ】2001年 アメリカ 1時間56分 ギャガ=ヒューマックス共同配給
監督:マイケル・クリストファー 原作:ウィリアム・アイリッシュ「暗闇へのワルツ」 脚本:マイケル・クリストファー 製作:デニース・ディノービ プロデューサー:ケイト・グインズバーグ、キャロル・リース 撮影:ロドリゴ・プリエート プロダクション・デザイン:デビッド・J・ボンバ 衣装デザイン:ドンナ・ツァコブシュカ 音楽:テレンス・プランチャード
出演:アンジェリーナ・ジョリー アントニオ・パンデラス トーマス・ジェーン ジャック・トンプソン アリオン・マッキー ジョアン・プリングル ペドロ・アルメンダリス コーデリア・リチャーズ グレゴリー・イッツィン

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