光の旅人
地球から1000光年離れたK-PAX星から来た異星人だと名乗る男を巡るファンタジー。家族の絆という寓意がはっきりしすぎているのが少し興ざめで、物語はさしたる意外性もなく進行していく。光を効果的に使ったイアン・ソフトリーの演出は丁寧だし、決して悪い映画ではないのだが、もうひとつぐらいアイデアを絡めると良かったかもしれない。新鮮みがあまりないのである。精神病院を舞台にした映画というと、「まぼろしの市街戦」(1967年、フィリップ・ド・ブロカ)や「カッコーの巣の上で」(1975年、ミロシュ・フォアマン)などを思い出すが、この映画にもそれらと同じような味わいがある。
精神科医のマーク・パウエル(ジェフ・ブリッジス)のもとに1人の患者が転送されてくる。その患者、プロート(ケヴィン・スペイシー)は駅に忽然と現れ、警察に保護された。自分は宇宙人だと名乗り、バナナの皮を付けたまま食べる。どこか変で妄想患者かと思われたが、プロートは理路整然と話し、故郷の星についても正確な知識があった。マークの義弟で天文学者のスティーブ(ブライアン・ハウイ)が用意した質問表に正確に答えたばかりでなく、プロートが説明したK-PAX星の位置には惑星が実在しており、まだその存在は学会でも発表されていなかったことが分かる。精神病院の患者たちはプロートを本物のK-PAX星人と思うようになる。マークは催眠療法でプロートの過去を探り、ついにその正体を突き止めたと思ったが…。
原作は科学者でもあるジーン・ブルーワーの処女作という。脚本は「マイ・フレンド・メモリー」のチャールズ・リーヴィット。ほぼ忠実な脚本化らしいが、マークの前の妻との間に生まれた息子との関係や今の家族の関係が物語に絡んでくるところなど、もう少し描写を割くべきだったのではないか。
ケヴィン・スペイシーは相変わらずセリフ回しの微妙な変化に感心させられる。この人のうまさというのは主に口跡の良いセリフにあると思う。精神科医役のジェフ・ブリッジスも好演と言ってよく、この2人の演技が映画を支えている。エンディング・テーマの「Safe and Sound」(シェリル・クロウ)も良かった。なお、エンディングの後にもう一つシーンがあるので、クレジットが流れ始めたからといって、席を立たない方がいい。
【データ】2001年 アメリカ 2時間1分 配給:日本ヘラルド映画
監督:イアン・ソフトリー 脚本:チャールズ・リーヴィッド 製作:ローレンス・ゴードン ロイド・レヴィン ロバート・F・コールズベリー 原作:ジーン・ブルーワー 撮影:ジョン・マシソン プロダクション・デザイン:ジョン・ベア—ド 音楽:エドワード・シャーマー 衣裳デザイン:ルィーズ・ミンゲンバッグ
出演:ケビン・スペイシー ジェフ・ブリッジス メアリー・マコーマック アルフレ・ウッダード デヴィッド・パトリック・ケリー ソール・ウィリアムズ ピーター・ジェレティ セリア・ウエストン